もぐら娘
彼女は異常なほど、光と音に敏感だ。
見事な秋晴れの空を皆が嬉しそうに仰いでも、彼女だけは俯いてサングラスをかけているし、駅のホームに電車が入ってくると必ず両手で耳を塞ぐ。
工事現場の近くを通る際は唇を噛みしめながら駆け足で通り過ぎるほどで、あまり都会に向いていない。
日差しに弱くてとても音に繊細だから、社内では彼女のことをもぐらみたいだから、と『もぐちゃん』と呼んでいた。
「私、安心する場所を知らないんです」
会社の飲み会で、もぐちゃんは宴会の騒めきに眉をひそめながら、とても切なそうにこぼした。
それからしばらくして、もぐちゃんは体調が優れなくなり会社を辞めてしまった。
何か精神的なものかもしれないし、見舞いへ行こうか迷った末、電話で連絡だけしたところ、存外彼女の声は明るかった。
「私、日本人で本当に良かった!」
弾むような声でそう言って、もぐちゃんは笑った。
彼女が希望に満ちていることが手に取るように分かり、私の心も晴れた。
そんなもぐちゃんの墓参りに今、来ている。
骨になったもぐちゃんは今、暗くて静かな土の中にいる。
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