ジャズに興味がある人に贈る私的ジャズ論 その7 ジャズのもう一つの形 ジャズボッサ
今回はジャズ聴き始めの皆さんに送る5枚目の紹介です。ジャズ聴き始めの皆さんへのおススメアルバムの連載としては今回が最終回です。ここまで読んでいただいた皆さんありがとうございます。これまでの4枚はいかがだったでしょうか?感想をもらえると嬉しいです。
今回の1枚は少し毛色を変えたジャズをご紹介します。おススメはこちら ↓
5枚目:キャノンボールアダレイ 「Cannonball's Bossa Nova」
(邦題:キャノンボールズ・ボサ・ノバ)
ジャケが良いですね。別にカッコいいアルバムジャケではないんですが、このそっけない感じが逆にいにしえの名盤の雰囲気を伝えます。ブラジルの観光地リオデジャネイロの写真でしょう。
このアルバムがおススメの理由は、
・ジャズの多様性を知る
・ジャズと非常に相性の良いボサノバを体感する
・演奏はまさにプロで、ジャズでありボサノバでもある素晴らしいデキ
・BGMにも最高で、押しが強いジャズの中で引きの美学でリラックスできる
このアルバムは1962年録音ということで、前回紹介しましたハードバップの名盤「バードランドの夜」からおよそ8年後。そろそろ世間的にもアーティスト的にもハードバップ熱も冷めてきて違うジャズがどんどん生まれる頃の作品です。
これまでご紹介した作品はあえて様々な方向性の作品を選ばず、王道よりのものを選択してきました。しかし、実際にジャズにはもっとバラエティがあります。第2回の記事でも言及しましたが、ホテルのラウンジでピアニストが奏でるようなジャズと、クラブDJがサンプリングするジャズは全く別物です。そんな中一つの発展形であり完成形でもあるジャズボッサを紹介したいと思いました。
「ボサノバ」自体は音楽ファンには良く知られたジャンルでしょう。ブラジルを発祥とした音楽で、様々な優れたアーティストや楽曲があり、ジャズと同様ボサノバにもボサノバファンが大勢いるそんな音楽です。
このボサノバですがそもそもジャズとかかわりが深い音楽なんです。曲が持つコード(和音)感がジャズと非常に近い。もう少し具体的に言えば、コードがテンションだらけで、普通にC(ドミソ)FGなど3コードでは曲にならない。アーティストは複雑なコード理論を知りそれが弾ける技術力がないと演奏にならないんです。
そんな和声が近しい音楽同士がくっついて生まれた「ジャズボッサ」。これは当時のアメリカで大成功しました。実はジャズボッサで最初に成功したアルバムはスタンゲッツのアルバムなのですが、私はあえてこちらを選んでいます。理由として、スタンゲッツの方はもう少しボサノバ色が強く、ボサノバ側のアーティストの押しが強く感じられるからです。が、スタンゲッツのジャズボッサも傑作ですので、興味があればぜひ聴いてみてください(ググれば出てきます)。
つまり、よりジャズっぽいのはこちらということです。私個人はこの手の音楽を気に入ってしまい本場のボサノバにもチャレンジしましたが、純粋なブラジル音楽としてのボサノバよりも、ジャズボッサの方が好きです。生粋のボサノバファンからは良く思われていないかもしれません(笑)。
どことなく淡い音像と微妙に移り変わる時に切なく、時にけだるい夏を思わせるコード感。そこにキャノンボールアダレイの大人っぽいつやのあるアルトサックスの音色。ここでのキャノンボールアダレイのプレイは素晴らしく、あえて感情を抑え無名のメロディメイカーに徹する感じがより一層都会的で洗練されたメロディを引き立てます。
このアルバムのピアノはかの有名なセルジオメンデス。先日残念ながら亡くなってしまいましたが、マシュケナダの大ヒット前はこんなこともしていました。
正直、主役のキャノンボールアダレイ以外のプレーはセルジオメンデスを含め全く目立つものではないんですが、そこがまた良い。アルバム全体として非常に統一感があり音がまとまっています。余力充分でまさにプロの仕事。
特に裏でずっと淡く鳴っているギターがイイ!"タンター・ンタータ・ンタータ・ン・ター"と一定のリズムで弾かれる淡いコードワークを聴くと「あぁボサノバっていいなぁ」と嬉しくなってしまいます。こんなところでハードバップ風なアドリブ合戦はいらない。ガチャガチャしてしまいブラジルの海や夕焼けの雰囲気が台無しになります。
全体的にアダルトな雰囲気のこのアルバムはBGMとしてもぴったりです。曲調的にはおしゃれなカフェで流れていても全く不思議ではない。というかどこかでは流れているでしょう。そんな音です。これを嫌いと言う人はいないはずです。部屋でも車でもどこでも聴けます。ハードバップがジャズメンの「これでもくらえ!」というその場、その空間での魂の発散の場所だとすると、こちらは感情を抑えたトータルコーディネイトによる映画音楽のような世界。こういう引き算的なリラックスできるジャズもあっていい。
どうでしょうか?前回まで紹介してきたジャズもジャズですし、これもジャズ。ジャズって色々あって面白いと思って貰えたらこの連載も成功ということかもしれません。
今回を含め、全部で5枚のアルバムをご紹介しました。これらは全てとっかかりでしかありません。むしろ、人気のあるジャズアルバムは他にもまだまだたくさんあります。ジャズファンの方達はこの連載を読んで「なんであれを勧めないんだ?」とか「お前はXXの良さはわからんのか?」など思って読んでいた方もいると思います。
事実、マイルスデイヴィスは意図的に外しているにしても、ジョンコルトレーンもビルエヴァンスも出てきません。が、それは最初の1枚ではないかな?と言うのが私の意見です。ビルエヴァンスのピアノの良さや特徴をより理解するには、ハードバップ期の黒人ジャズメンの王道ピアノを聴いておいてからの方が良いと思うからです。
今回おススメした5枚を10回ずつ聴いてもらった(前回の4枚目は100回を推奨)後で、他のいわゆるジャズジャイアントの名盤を聴くと、より一層その良さもわかるはずです。
気付いた方もおられるかと思うのですが、ジャズは意外とアルバムジャケットがカッコいい(笑)。今回の5枚の中で前回のバードランドの夜はちょっと?ですが、他の4枚は家にあっても良いんじゃないかなって思います。アナログ盤(レコード)をポスターや写真代わりに飾っておくのもおしゃれでじゃないですか(聴くのはCDが手軽だと思いますが)?
サブスクは気軽に聴けますし否定しません。が、ぜひアルバムを手に取りジャケットを眺めながら(& 解説を読みながら)ジャズを楽しんで欲しいなと思います。入ってくる情報量が不思議と違います。お試しあれ。
これからジャズを聴き始めようとする皆さんへのおススメアルバムの連載は一旦これで終了です。
まだまだネタはありますので(笑)、違う角度でジャズを紹介していけたら良いなと思っています。
では、またお会いしましょう。
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