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クラシックコンサートに行ってきた話

こんにちは。シモンズです。

ふだんクラシックを録音で聴いていると、「いつかこれを生で聴いてみたいな」と思うことがあります。

結論から申し上げれば、クラシックは生で聴いた方がいいです。録音では聴こえない音が聴こえたり、「ここはこう弾いているんだ!」といった新たな気づきがあったりするので、今までよりも奥行きをもって曲を理解することができるようになるからです。

ということで今回は、私が先日鑑賞してきたクラシックコンサートの詳しいレビューを行っていきたいと思います。


1.日本オーケストラの父・近衛秀麿

私が行ってきたのは、10月4日(水)にサントリーホールで開催された「パシフィックフィルハーモニア東京 第160回定期演奏会」です。

指揮は飯森範親氏、ピアノのソリストとして登場したのは新進気鋭の若手女流ピアニスト・松田華音氏です。今まで存じ上げなかった方なのですが、どちらもとても素晴らしい演奏でした。

この回はちょっとした特別企画で、今年(2023年)に没後50年を迎えた指揮者・作曲家の近衛秀麿が編曲を施した特別バージョンの名曲を演奏するというものでした。

プログラム構成は以下のとおりです。

越天楽(近衛秀麿による管弦楽版)
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11(近衛秀麿編曲)
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(近衛秀麿編曲)

近衛秀麿は五摂家である近衛家の次男として生まれ、兄の文麿は戦前に首相を務めたことで知られています。

ドイツでエーリヒ・クライバーに学び、その後なんと自費でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を雇って指揮者デビューを果たします。帰国後は山田耕筰とともに「日本交響楽協会」を結成し、「新交響楽団(現在のNHK交響楽団)」の設立にも携わるなど、草創期の日本のオーケストラ界に多大な貢献をした人物です。

2.コンサートレビュー

ここからはプログラムの解説とレビューです。

最初の「越天楽」は雅楽の曲目の一つで、お正月になるとテレビなどで何度も耳にする、日本人にとってたいへん馴染みの深い曲です。

雅楽といえば、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)など独特の楽器で演奏されるのが特徴ですが、近衛はそれをオーケストラ用に編曲するという大胆なことをやっています。

全曲の中で私がもっとも「面白い」と感じたのはこの演奏でした。本物の雅楽ほどの迫力はありませんが、何度も繰り返される主題の美しさを味わえる名演だったと思います。

指揮者によるトークの後にピアニストが登場し、ショパン「ピアノ協奏曲第1番」が始まりました。私がいちばん楽しみにしていた曲です。

第1楽章の冒頭、オーケストラが有名な2つの主題を奏でます。よく聴くと通常版と楽器編成が異なっているのがわかりますが、私のような初心者にとってはたいした違いではありません。

長いオケパートが4~5分ほど続いた後、満を持してピアノが入ります。最初の「ミ」で、ブワーッと鳥肌が立ちました。なんて凄いパワー!

第2楽章の冒頭は、通常であればヴァイオリンを中心とした弦楽器が主題を歌うところですが、近衛版では木管がこれに代わっています。

甘く美しい、まどろむような響き。ピアノもゆったりと語りかけるように演奏され、聴く人を夜の世界へと誘います。あまりに心地よすぎたのか、客席からもイビキが聞こえました。起きろー!

第3楽章は軽快なロンドです。ドレスの裾をはためかせ、ステップを踏んで踊るピアノと、それに呼応して手拍子を打つオーケストラ、というイメージでしょうか。両者は交互に掛け合いながら、盛り上がりの中でコーダを迎えます。

演奏終了後、割れるような拍手の中でソリストが再登場し、アンコールに応えてくれました。曲はリャードフ「音楽の玉手箱」でした。

休憩を挟んで、最後に演奏されたのはムソルグスキー「展覧会の絵」。もともとはピアノ独奏曲として作曲されましたが、ラヴェルがオーケストラ版に編曲したことで一躍有名になりました。

他にも複数の作曲家が、この曲のオーケストラ編曲版を書きましたが、いずれもラヴェル版ほどの知名度はありません。したがって我々がこの曲を耳にするときは、ほとんどがラヴェル版です。まさに「ラヴェル一強」状態の中で、近衛はこの曲に挑んだのです。

最初のプロムナードは、ラヴェル版ではトランペットのソロから始まりますが、近衛版ではいきなり弦楽器から入ります。ラヴェル版に慣れている人はびっくりするでしょう。

驚いたのはその後の「小人」です。どこか不穏な曲調ですが、ラヴェル版では静かに演奏され、そこまで大きな音は出ません。ところが近衛版ではアクセントを変えているためか、とても強く激しい演奏になっていました。これでは小人というよりむしろ巨人です。

このように、近衛版には随所においてラヴェル版との違いを強調するような部分がみられ、近衛がラヴェルという大きな壁に打ちのめされながらも、それを超えようと格闘していたことがうかがえました。どちらが好みかという問題はさておき、とても興味深い解釈であると思います。

8曲目の「カタコンベ」以降は、圧倒的なパワーで駆け抜けます。終曲「キエフ(キーウ)の大門」ではシンバルに加えて鐘や銅鑼も入り、爆音の中で感動的なフィナーレを迎えます。ここまでくると、もはや誰の編曲であるかなど関係なく、ただ目の前に迫る音の世界に身を任せるのみでした。

3.総括

私はあまりコンサートに行く機会がないのですが、今回の演奏を聴いたことで、やはり生の音は素晴らしいと再認識しました。有名曲ばかりだったこともあって、あまり身構えることなく素直に楽しめたと思います。

オーケストラの演奏はもちろん、指揮者・ソリストのパフォーマンスにも目を見張るものがありました。「展覧会の絵」における飯森範親氏の激しく情熱的な指揮もよかったし、松田華音氏も力強く美しい、まさに鍵盤から水晶がこぼれて落ちるような演奏を見せてくれました。

何度も言うとおり、クラシックは生で聴いた方がいいです。みなさんも機会があればぜひ行ってみてください。

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