ひく人、ひかれる人

 去年の冬、忘れもしない。仕事が長引きそうなので、近くのスーパーに夜食を買いに行った。その帰り道、車が数台止まっていた。道の真ん中には数人の人だかりと、倒れているおじいさんがいた。とっさに、「何かできることありますか?」と、自転車を降りて声をかけた。引いてしまったのは30代の女性、車の中には子どもがいるようだった。事故を起こしたショックで少し混乱していたが、先に助けに入っていた男性と、とりあえず歩道の方へ運ぶことになった。意識はあるが、頭からの出血がひどくすぐに救急車を呼んだ。5分という時間をこんなに長く感じることはなかった。

 警察の事情聴取を聞くと、どうやら女性が子どものことに気を取られてる間に、横断歩道ではないところをわたっているおじいさんに気づかずひいてしまったようだ。

 当然、前方不注意で運転する方が悪いのだが、倒れたおじいさんのもとで、何度も「ごめんなさい、ごめんなさい。‥」という女性を見ると複雑な気持ちになった。そして、車内にいる子どもは何歳かわからないが、どんな気持ちで待っているのだろう。

 事故はみんなを不幸にする。そう痛感させられた出来事だ。それ以来、自分は車間距離も必ずとるようにしているし、横断歩道や見通しの悪い道では必ず一時停止、徐行をするようになった。あの日の現場にいた人のような思いは誰にもさせたくなかった。

 そう自分が思っていても、命を軽く見ている人は多い。今日まったく同じ場所で、今度は自分がひかれた。相手は車、こちらは自転車。横断歩道前で一時停止せずに突っ込んできたので直進する私にぶっかった。避けて反対車線に出たから後輪に接触するだけですんだが、子どもだったら跳ね飛ばされていただろう。さすがにカチンときたので「なぜ止まらないんですか?!」「子どもだったら死んでますよ?!」語気を強めて言い放った。相手は去年ひかれたおじいさんのような年齢の人だった。謝ってはいたが、これからは気をつけてくれるだろうか。人が血を流してからでないと反省できないようでは、誰かを不幸にしてしまうというのに。

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