異世界転生してもいいことなんかないじゃないか 第4話 払拭
ダンスパーティから1週間が過ぎた頃、私の下に手紙が届いた。送り主は兄のナーガであった。彼からの手紙などロクなものではない。私はそう思いながら手紙を読んだ。するとその中身はナーガが3ヶ月後に決闘大会を主催する旨であった。
「ふーん。いいじゃない。」ヴァイオレットは手紙を読み、一言そう言った。
「いいって、ナーガの剣闘の才能を知らないの?絶対恥をかくだけだって。」私は反論した。
「だって魔法ありなんでしょ?ならあんたでも勝ち目はあるでしょ?何より私が3ヶ月間みっしりシゴいてあげるわ。」ヴァイオレットはニヤリと笑った。
たった3ヶ月の修行でナーガと渡り合うなんて無理だ。私はそう思ったが、ヴァイオレットは一度こうなると一切言うことを聞かなくなる。私は彼女の言う通りにすることにした。
ー3ヶ月後ー
ついに決闘大会の日が到来した。私は緊張した面持ちで会場、そして選手控え室に向かった。そこで1回戦目の対戦相手がお披露目される。私の相手は、この国1番の弓使い「ヘーニル」だった。
決闘大会は1対1の戦いである。武器はなんでも使用OKで、もちろん魔法も使って良い。ただし相手を殺しては失格となる。私は武器を扱ったことがないので、魔法一本で挑むことにした。
ついに私の番が回って来た。私は緊張を解くことができず、そのまま舞台に向かった。対戦相手は余裕の表情を見せている。
「落ちこぼれの王族が相手なんて、いったいどんな試合をすりゃいいんだよ…」ヘーニルはそう呟いた。
「それでは試合を始めてください。」審判の合図と共に、ヘーニルは弓を構えて矢を放った。私はスッと矢を交わすが、矢は私を追尾してきた。
「な!?」驚きとともに私に矢が突き刺さった。
「おいおい、ただの矢を放つわけないだろ?もちろん矢には魔法を込めて追尾機能が付いてるぜ。」ナーガはニヤリと笑い再び矢を数本放った。今度は防御の魔法を展開して矢を防ごうとした。しかし、矢は私の防御を貫通し、再び全弾私に突き刺さった。
「矢の威力も魔法で上げてるに決まってるだろ。やっぱ落ちこぼれは大したことねぇな~。」ヘーニルは顔は余裕そうな表情をしているが、攻撃の手は緩めない。
避けることも防ぐこともできない矢。幸いなことに矢は急所には刺さっていない。まだ魔法を繰り出す余裕はある。私は攻撃魔法を繰り出した。私の魔法がヘーニルの矢に当たると、矢は失速しその場に落ちた。矢を防ぐことはできないが、矢に攻撃をして勢いを相殺することはできるようだ。
私の頭に勝利のヴィジョンが舞い降りた。ヘーニルが矢を放ち、私が魔法でそれを相殺する。私は攻撃するために溜めた魔力をすべて放出していなかった。そして間髪入れず私の残りの魔力を消費してヘーニルを攻撃した。
ヘーニルは矢を放ったばかりで防御の用意ができていない。私の攻撃がヘーニルに直撃し、ヘーニルは意識を失った。
第1回戦、私は辛くも勝つことができた。
次の2回戦に向けて待っていると、兄の試合が始まった。私は兄がどんな試合をするかは知らなかったので、兄の試合を観戦することにした。すると兄はこの魔法時代らしくない戦いをしていた。兄の武器は、兄自身が魔法で創り出した「魔神剣」という武器だ。魔神剣は、すべての魔法を無効化するという魔法がかかっている。故に兄はすべての魔法を剣で防ぐことができる。そして隙をついて敵を切り裂くという戦法だった。その戦法で兄は一瞬で1回戦を突破した。
その後も大会は続く。私は1回戦目での勝利で調子づき、その後も順当に勝ち進んだ。兄も苦戦することなく勝ち進み、とうとう互いに決勝戦まで進んだ。
ついに決勝戦、兄との一騎打ち。私は人生で一番緊張した。休憩時間でも緊張を解くことが出来ず、心臓が最高潮に鼓動している状態で舞台に向かった。
「お前が決勝までのこるとはな…。」
「もう昔の私じゃない。覚悟しろ!」お互い構えをとった。
「それでは、はじめてください!」
審判の掛け声とともに、私は魔法で攻撃した。当然魔神剣で防がれるが、同時に兄の死角に入り込み、再度魔法を繰り出した。だが兄の反射神経は並みではない。兄は死角からの攻撃でもなお防ぎ、今度は私に切りかかって来た。魔神剣の攻撃は魔法で防ぐことができない。自身の筋力と反射神経でかわすしかなかった。
「俺の剣術をかわすとは…。」兄はそう言って今度は魔法を繰り出した。
私はその魔法を防御魔法で防いだが、同時に兄が攻撃してきて私は兄の攻撃を喰らってしまった。再び兄は攻撃魔法を繰り出した。今度は私は右に飛び込み交わしたが、兄が私の避けた先に来て再び攻撃を喰らってしまった。魔法を放ち、避けた先に攻撃する。避けなくても魔法でダメージを受ける。避けても攻撃を喰らう、避けなくても喰らう。これが兄の真の戦法だった。
私はその後3回ほど兄の攻撃を喰らい、ついにその場に倒れこんでしまった。意識が飛びそうだ…。私は薄れゆく意識の中、ヴァイオレットとの修行を思い出した。
「あんたはただでさえ魔法が苦手なんだから、普通にやってナーガに勝てるわけないでしょ。」まず思い出したのはヴァイオレットの厳しい言葉だ。
「なら今度の決闘大会でどう勝てばいいんだよ?」
「本当あんたは1人じゃなんもできないのね。魔法で勝てないなら知識・戦略を工夫するしかないでしょ。これは私の父さんから教わったことよ。」
「具体的にどうすればいいんだよ?」
「それを私が言ったら何もあんたのためにならないでしょ。たまにはあんた1人で考えなさいよ。」
そうだ。正面からぶつかっても兄には勝てない。今まで何もいいことがなかった人生。せめて生まれ変わったこの人生は、私自身の手で変えてやる!私は地面に手をつき、立ち上がった。
「もうぼろぼろだな。いい加減あきらめろ!」
兄が再び魔法を繰り出す。私は防御魔法を展開した。当然兄は私に向かって剣を振るってくる。私は何とか急所を避けて兄の攻撃を受けた。
「な!?なぜ避けない?」
「私ではあなたの攻撃は避けられない。なら最初から避けなければいい。」
私はそう言って後ろに下がり、魔神剣の刃を掴んで私の方に引っ張った。兄は踏ん張るがそこまでが私の計算通りだった。兄が踏ん張った足元には、私がさっき立ち上がったときに罠を仕掛けていた。兄がそれを踏むことによってトラップが発動する。兄の足元から無数の蔓が生い茂り、兄の全身を絡めとった。兄は剣を振るうことはおろか、身動きすら取れなくなった。絶好のチャンス。私は全魔力を込めた。
「私の勝ちだ、兄さん。」
そういって私は最大の攻撃魔法を繰り出す。それが兄に直撃し、兄は気絶した。
「ナーガ選手気絶。よって優勝は、トール選手!!!」
審判の叫び声とともに会場中に歓声が響き渡る。初めて私だけの力で勝ち取った勝利。私は満身創痍で控室に帰った。
控室に入るとそこにはヴァイオレットが待っていた。
「あんたの試合見てたわ。1人でナーガに勝つなんてやるじゃない。」
「ヴァイオレットが一緒に修行してくれたおかげだよ、ありがとう。」
「いいえ、今回の勝利は間違いなくあなたがもぎ取った勝利よ。今日のトール、ちょっとかっこよかったかも…。」ヴァイオレットは頬を少し赤らめた。沈黙がしばらく続く。すると誰かが入って来た。来たのはなんとナーガだった。
「あんた、何をしにきたのよ。」ヴァイオレットが威嚇をする。
「すこしトールと話がしたくてな。まさかお前に負けるとは思わなかった。お前がここまで成長していたとは。」ナーガはそう言って急に土下座をした。
「今まで本当にすまなかった。俺が間違っていた。許してくれ。」
確かに兄が今までしてきたイジメは謝って許されることじゃない。だが兄は次期王として育てられ、プライドがとても高い。死んでも他人に頭を下げない兄が土下座をしているという事実により、私の過去や兄への憎悪は消えていった。
「頭を上げてください。もうあなたのことを恨んでいませんよ。確かに私は王族として落ちこぼれだったし、臆病だし、今思うといじめられても仕方なかったなって思うよ。」私は笑って言った。そして兄に握手を求めた。
「これからは兄弟として仲良くしていこう。」
「ありがとう。お前こそ真の王にふさわしいかもな…。」兄はそう言って笑って握手をしてくれた。
「これからまた城で暮らさないか?もちろんそちらの女性も一緒に。」兄が続けて言う。
「いや、もう彼女の家に住み慣れてるので、今のままでいいかな、ね、ヴァイオレット?」
「あんな広いとこに住んでも落ち着かないしね。」ヴァイオレットが笑って言った。
気づいたら3人とも笑っていた。ようやく忌まわしい過去を清算できたかな。私は心の中でそう思った。一方その頃…
ースカーレット宅ー
「あれ、今日はお嬢さんはいないんですかい?」とある男がスカーレットに話しかける。
「ええ。今日は居候と用事があるみたい。」スカーレットが答える。
「へ~。お嬢さんにも男が出来たのかな?」
「そんなことより、準備はできたの?」
「はい。もういつでも行動を起こせますぜ。ターゲットはもちろん…」男の発言にスカーレットが続ける。
「ジャックよ。ヤツはこの国の王にふさわしくない。今から全員に伝えて。今日の深夜0時、クーデターを決行する。」
あたりに雷鳴が鳴り響く。
ーTo be continued ー
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