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閑話休題(あなたの考えを述べよとは?)

 答案を返すと、「これがなぜいけないのですか」と、詰問・抗議に近い形で迫ってくる生徒さんがいます。

 国語には「(傍線部)とはどういうことか、説明せよ」という設問があります。答案の評価について説明を求める生徒さんの多くは、「傍線部についての説明」という設問に対し、「傍線部について自分が考えたこと、思ったこと」を書いているケースが多いです。
 自分の価値観を根拠とした主観的・感情論的主張が示されているとも言えます。ここで求められているのは、本文の内容を根拠とした客観的・論理的考察です。
 この点で根本的に間違っていると言えるのですが、生徒さんは簡単には引き下がりません。なぜなら、今まで「傍線部について自分の考え・思いを述べて点数を貰っていたから」です。
 
 時が経ち、このタイプの生徒さんが推薦/AOでの大学受験を希望すると、私のところにやってきます。入試科目に小論文があるのです。「まず、過去問から1つ選んで書いて持ってきて下さい」と伝えます。
 1週間後、その小論文を読みます。テーマについて論点を設定し解決策を示すという構成はできています。論文としての「型」は整っていると評価できます。本人も自信満々です(既に何人かの先生にみてもらってお褒めの言葉もいただいているようです)。

 ポイントは、「あなたの考えを述べよ」という設問。
 「あなたの考え」という言葉には、既存の価値観にはない視点から「論点」を設定し、それに対する既存の発想にはない「解決策」を考察せよという意味が内在します。論文ですからね。
 しかし、生徒さんが書いてきた内容は、「既存の論点に関する一般的な解決策」を述べているに過ぎません。それは、あなたの考えではないですね。
 先人の考えです。
 言葉を変えると、先入観・知識の羅列、調べ学習のレポートとも言えます。もちろん、論文として形式が整っていて、テーマについての知識が披露されていれば合格できるレベルの大学もあります。
 しかし、あなたが受ける大学が求めているのは「本当の論文」だよ。
 「あなたの考え」を書くんだよ。

 調べ学習と探究学習との違いは? とよく聞かれます。
 そのたびに上記のことを思い出します。
 既存の論点・解決策を知るのが調べ学習。
 新たな論点・解決策を考察するのが探究学習。
 それが「あなたの考えを述べよ」という小論文の問題文の意味。
 
 このことを知った生徒さんは、静かに職員室を出てきます。部活動も終わった校舎内には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
 その生徒さんの行方は、誰も知らない。

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