夏の三者面談と認めた人々

 高校1、2年生の時、三者面談で成績や生活態度、校則違反などのことを指摘され続けたB君母子。高校3年生になっても問題行動はありましたが、夏の三者面談は、就職に向けての話し合いが最優先。7月初日に求人票が公開され、8月下旬に出願、9月には就職試験です。しかし、B君母子は、三者面談とは担任に怒られるものと思い込み、就職について話し合いも準備もしていませんでした。仕方なく、夏休み、2度目の三者面談となりました。

二度目の三者面談は無事に終わる

 実は、B君が卒業してどこに就職したか、思い出せないんです。それは、おそらく私の自己防衛本能で、彼のことを思い出したくない、記憶から消したいということだと思います。
 覚えているのは、三者面談は普通に終わったこと(と言うことは、B君は受験する企業を決め、のち受験し、内定したはずです)と、母親が帰り際に封筒を出してきたことです。
 そこに入っていたのは、現金。
 7月に、B君とC君とが壊したと疑われるガラスと消火器の弁済費用です。

B君母から電話がかかってくる

 二度目の三者面談の少し前、B君母から学校あてに電話がありました。
 事務室から転送されて職員室で受けました。内容は、7月下旬にあった校内のガラスと消火器が壊された一件のこと。現場は見ていませんが、その直後に現場からB君とC君が走り去る姿を見たのは私。その後、保護者同席で事情を聴きましたが一切認めない。しかし、B君、C君の証言は一致しない、コロコロ変わる、最後は論点を変えて暴れ始めるというわけで、物証はないですが、心証はクロ。同席していたB君母も、それを認めざるを得ない。
 そこで止まっていた本件ですが、B君母の電話内容はこんなこと。
・その後、壊れたガラスと消火器とはどうなっているのか。
・ガラスと消火器の修理費用はいくらくらいかかるのか。
・本人は、自分には関係ないことと言い続けてはいるが…。

 学校の事務長が話の分かる人で、この件の対応に協力してくれました。
 つまり、修理の見積もりを取り、その金額を保護者に伝えることや、金銭の受け取りは事務室でやってくれると言うのです。
 ちなみに、ガラスが割れた扉はブルーシートで保護し、消火器の修理は手をつけていません。
 「わかりました。修理費用については事務室が対応しますので、電話を事務長につなぎなおします。そのままお待ちください。」と言って、母の言葉を遮りました。本件は事務的に進めるという姿勢を示すつもりでした。事務長に転送すると、私は事務室に入って、B君母と事務長との会話を聞きます。
 「はい…、はい…。そうです、まだ修理はしていません。はい…、はい…。そうです、本県の財政が苦しいこともあり、申請してもなかなか費用は簡単に認められないんです。先生方にも生徒さんにも、物は大切に使ってくださいとお願いしているのですが。はい…、はい、そうですか。もしそういうことであれば、県のお金、つまり税金ですねを使うよりは、壊した人が負担するというのが社会通念上望ましいと私は考えています。ただ、本人にもご家庭にも事情があるでしょうから、何かあれば…。はい、はい、そうですか。わかりました。費用は総額で○○円です。はい、はい。わかりました。では、お電話お待ちしています。」
 私もびっくりしたのですが、総額で10万円近い金額でした。ガラスが、特殊な強化ガラスだったのです。消火器の方は中身を入れなおすだけで約7,000円だったと記憶しています。

事務長の大岡裁き

 二度目の三者面談が終わって、私に差出した封筒を見て、その中身がガラスと消火器の修理費用と知った私は、その場では受け取らず、一緒に事務室まで足を運びました。
 幸い、事務長は在室しており、その場で「B君のお母さまです。事務長にお会いしたいとのことです。」と紹介しました。
 「今回は、ご迷惑をおかけしました。また、ご配慮いただきありがとうございます。こちらお受け取りください」とB君母は言い、事務長は封筒を受け取ります。B君母は、少し涙ぐんでいます。そして、帰宅していきました。

 私もお礼を伝えると、事務長がこんなことを教えてくれました。
 「あの後ね、B君母から二度目の電話があった。私の息子がやったことなので、修理費用を負担したいと言っていた。ただ、金額が大きいので一度に支払うのは難しい。どうしたらよいかと涙声で言っていた。」
 「C君の家とは連絡を取りましたかと聞いたが、取っていないと言っていた。二人がやったことなら、半分ずつ負担すべきではないかと言ったが、それは難しいと言っていた。これは大人の関係性ではなく、B君・C君の関係性だと思うよ」
 「学校長とも相談済みなのだけど、もし当事者が弁済を申し出てきた場合は、学校と当事者との折半にするつもりだった。全額となるとさすがに金額が大きいし、前例もない。幸い、半額ならまだ学校の予算が残っている。」
 「ただ、そのことは伏せて、B君母には、それではお母さんも大変でしょうし、正直に申し出てくれたこともありますから、半額負担ではいかがですかと伝えた。半額にするのは、もともとは事務的な判断なんだけど、今は心情的にもB君母には半額負担でいいんじゃないかと思うけど、それでよかったかな」
 よかったでしょう。どう考えても。
 私も金額の大きさは気になっていましたし。B家が全額負担と言うのは公平ではないと思いますが、C君が払うとも考えられませんし…。
 ただそういう現実的なことだけでなく、B君母は、学校からはじめて好意というか、暖かい気持ちと言うか、そういうものに触れたんじゃないですかね。私でも泣きそうですから、B君母はかなり救われたと思います。
 B君、就職決めて、初任給で返せると…ですね。
 という雑談をし、「眠ってる? 休んでる? 身体大事にしなさいね」という定番の会話があり、「もし倒れたら、労災認定してあげるからね」というブラックジョークに対し、「大丈夫です、倒れる時は学校で倒れますから」と返しました。
 学年主任とも話をして、本件はこれにて一件落着。
 数日後には修理も終わりました。

2学期と就職試験がはじまる

 就職試験は、9月第2週頃から始まります。
 会社により、試験は平日だったり、休日だったりします。
 その結果は、だいたい2週間後、学校宛に書類で通知されます。ダメだった生徒は、次の企業を受験します。
 この期間中、学校は静かでした。
 問題行動もなく、就職試験に集中してくれました。
 しかし、その結果が判明し、文化祭が終わった10月、彼らは再び暴れ始めます。
 内定を勝ち取ったのだから、もうまじめに過ごす必要はない。
 そして、ここまでの恨みを晴らすのだと言って、授業妨害、威圧行為が再開されます。地域からも、彼らについての苦情や、万引き・喫煙している現場を捕まえたなどの連絡が入ります。
 私の記憶が蘇らないのは、この期間です。

                   続く…

       

 


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