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突然吹奏楽部の顧問となる⑶

 人口減~生徒数の減少~クラス減~教員定数減~音楽の先生が非常勤講師になる~音楽の先生が隣の学校に異動する~音楽の先生が顧問・指導していた吹奏楽・合唱の顧問になる…という玉突き人事。
 私が顧問になったのは、副顧問だったから。校長先生は、単純に・事務的に、副顧問を正顧問にしただけ。音楽経験がなくても、楽譜が読めなくても関係ない…そういう発想の人。
 一応、学生時代に少し音楽経験がありました。友人に音楽家がいて、前任校の教え子で音楽大学に進んだ者がいました。彼らに連絡を取り、その力を借りながらやるしかありません。
 でも、指揮の経験はありません。和音もわかりません。曲もよく知りません。それでも、新学期の始業式・入学式では校歌や入退場の演奏があります。

4月になって新しい座席につくと何人かの先生が寄ってくる

 これは、後々、吹奏楽部顧問のあるあるとわかるのですが、こういう洗礼を浴びます。
「吹奏楽の顧問になったのね。お疲れさまです。それでね、ちょっといいかな…」
「あのさ、吹奏楽部の部員ってさ、熱心なのはいいんだけど、もう少し勉強させてくれないかな」
「吹奏楽の部員には、東大とか、旧帝大系を狙える力がある子が多いんだけど、部活動に逃げて、東大いけそうな子がそうじゃない大学、旧帝大を狙えることが地元国公立や私立に逃げるんだよ」
「3年生は、運動部と同じように、6月には引退させてくれないかな」
「放課後や休日の練習で教室を使うんだけど、これから私の教室は使わないでくれないかな。マナーが悪いし、そもそもうるさいんだよね」
 
 吹奏楽部という存在に、よくないイメージをお持ちの先生、多いのですね。で、前任の音楽の先生はベテランで、そもそもこの学校の卒業生でもあって、そういう先生には言いにくかったようです。で、私が顧問になったと知り、いままで言えなかった「苦情」が持ち込まれます。
 ほぼ怒られている…という状況。
 これ、あるあるなんです。

吹奏楽部の傾向と対策

 吹奏楽のスケジュールはこんな感じ
・4月 始業式・卒業式などで演奏
・5月 体育祭で演奏
・6月 定期演奏会実施
・7月 文化祭で演奏、コンクール地区予選
・8月 コンクール県大会
・9月 コンクール支部大会
 3年生はコンクールで負けて引退です。というわけで、もし県大会を突破した場合、引退は9月…。これが、気に食わない先生も少なくない。校内で実施している課外講習などに申し込まない・参加しないことが気に食わない先生も少なくない
 また、土日に受験補習・模擬試験をやっているときに、楽器の音が聞こえることもあるわけで、その時、吹奏楽部はオフであっても、個人で練習している部員がいたりすると、「吹奏楽部は何をやっているんだ…」となります。
 というわけで、進学校として、大学受験体制(課外講習などの実施)を強化する中、吹奏楽部は練習環境、練習時間などを考えないといけない状況になっていました。つまり、部活動の練習時間と、課外講習・模擬試験の時間が重なるのです。その対応が必要なんですね。

文化部顧問会議の議題になる

 音楽室があるのに、なぜ吹奏楽部は普通教室で練習するのか…ということ。ただ、この議題の背景にあるのは、休日の練習の時、お昼にコンビニ弁当を食べて、教室のゴミ箱に捨てるという一部の部員の行動。月曜日の朝、教室のゴミ箱がいっぱいだと、それは担任の先生驚きます。黒板使って消していないとかも…。
 そんなわけで、文化部に「使用教室の割り当て」をすることになりました。吹奏楽部に割り当てられた教室は2つ…。これでは、ちょっと、個人練習やパート練習が成り立ちません。
 頭を下げて、お詫びをして、何とか5つに増やしてもらいました。
 あと、その教室の担任の先生が許可したら、割り当て以外の教室も使ってよいという「付帯条件」もいただきました。
 また、その年の「文化部予算」は申請しないことも申し出ました。
 文化部予算とは、PTAや生徒会費などを原資とする予算で、「文化部全体で年間30~50万円」が配当されます。これを、文化部の中で分け合って使います。新規楽器購入には欠かせない予算ですが、これを今年度は放棄することを申し出ました。文化部予算の大半は吹奏楽部で使ってしまうことが多く、そのことに潜在的不満があったのです。
 これは、もう、職員室内の人間関係の問題と言えます。そして、顧問のあり方で判断されるという状況です。念のためですが、顧問が変わったことで、いままで黙っていた人が口を開いたということ。もう一つ念のためですが、「(私)が悪いわけではない。むしろ、(私)ならこの問題を理解し、改善に協力してくれると期待している」だそうです(まぁ、ものは言いようですが)。
 ある程度妥協しないと、職員室を敵にする可能性は高いです。
 もちろん、部員は不満で、その怒りを私に向ける者もいます。
 ただ、たとえば文化部予算については、「隔年で全額を吹奏楽部で使う」というルールの提案をいただきました。これが実現すれば、2年に1つ、高額な楽器の新規購入が継続的に可能になります。
 また、部長や学生指揮者たちが、休日練習が終わった後、使用教室以外のごみ捨てや、校舎内の清掃を自主的に始めてくれました。

練習などをどうするか

 3年生の受験課外については、進路指導部から年度初めの職員会議でこんな提案がありました。
 1,平日放課後、毎日2コマ実施する
 2,土曜日の午前中にも実施する
 3,模擬試験は、原則土曜日一日で実施する
 吹奏楽・合唱の3年生は、こうした講習・模試にあまり参加していませんでした。部内の空気感としては、コンクールに全力を注ぐので、それが終わるまでは講習には参加しない。吹奏楽・合唱の練習は、土日も休みなく毎日行われています。そうしないと下手になるそうです。一方で講習に参加したいという理由で退部する者もいたそうです。
 さて、ここで問題があります。私は音楽ではありません。 
 私は3学年所属で、受験課外ではセンター対策、二次対策、小論文などを担当します。つまり、講習・模試の時間、部活動の指導はできません。
 部員の多くは「あっ」と思ったそうです。そうです、私は普通教科の教員。しかも、元予備校講師で、受験課外では割と主力…。
 私の提案は、3年生にも、受験課外、受験補習、模擬試験への参加を保証しませんか…ということ。
 つまり、原則土曜日は部活動をオフにする。そのことで、1~2年生には、「週末課題に取り組む時間」を保証し、3年生には「受験補習・模擬試験への参加」を保証しようという案です。
 また、音楽大学進学希望者には、「その時間に学外でのレッスンを受けること」「音楽室内にある防音室で、音大受験のための自分の練習時間を確保すること」も保証できます。
 そして、日曜日は「合奏」ということ。
 よく考えれば、土曜日は講習・日曜日は合奏ですから、私にも3年生にも「休み」はないんですけどね…。
 ただ、「進学校の吹奏楽部」という新しいあり方を確立しないといけません。それまでの「生徒の自主性に任せ、気の済むまで練習させる」だけでは、少し難しいです。
 「勉強時間を保証しつつ、計画的に練習を進めること」が求められているのです。
                  つづく…
 
 
 
 
 

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