講義型ネイティブの授業改善(きっかけ編)

 「アクティブラーニング」という言葉が出てきた頃。
 その言葉に影響を受けたわけではありません。講義型の限界を感じるというか、疑問を感じる場面が増えてきたのです。生徒さんが主役になるようにということ。教員である私より、生徒さんの方が賢く、倫理的で、未来への可能性を無限に秘めています。講義型では、そういう能力をつぶす可能性があるということ。というわけで、見様見真似で始めましたがうまくいきません。さてどうするか…です。

◆きっかけは「事実の確認」から
 国語の授業は、「今日の授業範囲の本文」を読むことから始まります。
 教員が範読する場合もありますが、生徒さんに読んでもらう方がよいという研究もあります。で、特に現代文の授業では「本文を読むことで授業の半分が終わる」ということも少なくありません。単元の授業の1時間目は、「全文を読み通す」ことで終わったりします。
 中堅進学校だと、「たどたどしく読む生徒さん」も少なくありません。とても時間がかかります。その間、自分のペースで先まで読んでしまう生徒さんも少なくありません。この段階で、「飽きる生徒さん×苦痛な生徒さん」の量産体制が完成します。読み終わると「あーーーー」というため息というか、やっと終わったという空気が教室内に充満することも。
 実は、私もこの時間が苦痛でした。何とかならないか…。
 そこで、「自分のペースで読める×本文の内容を理解する」ことにつながる「確認テストっぽいもの」を作りました。
 内容は単純。定期テストのような形式で、10~20分。
 ①今日の授業で読む本文を載せる
 ②「選択肢形式」の問いを載せる…というもの。
 問いは、「本文の内容として正しいものを選べ(複数)」「筆者の主張として正しいものを選べ(複数)」から入りました。選択肢を10作るのが少し大変でしたが、効果はてきめん。
 全問正解者なしが最初の結果。これには、生徒さんも…。
 ひっかけの選択肢は、「事実ではなく恣意的な解釈に偏ったもの」「筆者の主張ではなく一般論を述べたもの」などなど。こちらの選択肢に「面白いようにひっかかる」のです。いかに「事実を読み取れていないか」「自分の理解が恣意的な解釈に過ぎなかったか」に気づいてくれました。

◆毎時間の確認テストの積み重ねから単元テストへ
 教員用の授業資料には、考査問題例があったりします。
 これを少し加工して、単元テストとして実施しました。
 たとえば、「羅生門」が半分進んだら、「次の時間、ここまでの内容で単元テストをします。時間は20分です」と予告をしておきます。
 単元テストは、大学入試問題のような「空欄補充」「傍線部の理解」で作成します。「漢字の書き取り・語句の意味」も入れる時は少し時間を長くします。内容は、「あくまで事実が読み取れているか」の確認です。
 ちなみに、最初の単元テストの平均点は「50点」。
 単元テストは「簡単」「準備不要」と考え、制限時間よりも早く終わった生徒さんの多くが玉砕しました。要するに「本文を読んでいない」「自分の記憶・理解を根拠として正解を選んでいる」ということ。
 「事実を根拠とした思考」ができないんですね。そういう生徒さんに「論理思考」を教えても、それは身につかんです。

◆国語を「解釈だけ」で…
 昔は「感受性を育てる」ってことがよく言われました。
 人と違う発想、独自性の高い意見が尊ばれ、評価されたこともありました。その結果、「事実を読み取ること」ができなくなっていたと言えます。もう少し正確に言えば、「事実を理解する能力はあるはずですが、そういう意識がない」「事実への意識がないので、解釈を事実と思い込んでいる」「事実と解釈の区別がつかない、意識することがない」ということ(と個人的に思いました)。
 現代文でこれですから、古文・漢文はもっと…です。
 文法や背景知識と結びつけずに理解(?)した内容は、ほぼ創作と言えるもの。現代語訳なども同じ。創作部分が多い…。
 というわけで、事実の読み取りを徹底しました。これは講義ではなく、アクティブラーニングでもなく、「個人作業」として行いました。
 ま、事実の確認作業をグループワークで行うこともしましたが、それをするならば、「確認テスト・単元テストの時間を長くした方」が効果的でした。
 単元テストを数回繰り返すと、平均点が70点になりました。
 これは「初見の文章を読んで70%理解できるようになった」と言えるでしょう。その頃、生徒さんたちも「講義型ではなく、こういう授業でも学力がつく」ということを理解してくれたようです。これ以降、確認テストは半分以上が全問正解、単元テストの平均は80点以上という流れが定着しました。

◆アクティブラーニング型授業でなくてもよい
 対話や討議を交える、意見を交換・共有するということが大切と言われていました。しかし、私自身のファシリテーション能力は、そこまで達していません。
 個人的には、「教材を作る」ことが得意で、試験問題を作る方が自身がありました。それが、「確認テスト」「単元テスト」になったわけです。これは、「教員側の実力に見合った授業改善」と言えるかもしれません。
 また、生徒さんも「クラス内の人間関係をこえて、授業で対話する・討議する・共有する」ということに戸惑いがあったと思います。「日常でできないこと」「今までやってこなかったこと」「教え合う」を求められても困りますね。そこで、「まず自分の理解を深める・確認する」「input×output」という「個人作業」を自分ペースで行う時間を、授業の最初に設定しました。
 これが、最初のきっかけ。
 要するに「事実と解釈」の違いを認識し、事実を根拠とする思考を導くということ。
 そして6月に模試があり、偏差値が「ぐん」と伸びました。
 ホッとしました。
                      続く…


 

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