教員としての試練が始まる その3(B君のケース)

TVドラマで描かれる先生は…

 先生のお仕事は、まず「授業」のはず。
 しかし、TVドラマで授業が描かれることはほとんどありません。
 金八先生も、工業高校のラグビー部の先生も、「勤務時間外」に走り回っています。そこにドラマがあるんですね。ちなみに、源氏物語では光源氏の恋愛沙汰が描かれますが、これは「勤務時間外」の出来事。光源氏は今風に言えば特殊公務員で、昼間は皇族としての業務があったはず。
 授業以外、勤務時間外に求められることが増えてきたのは、そこに「学校の先生の価値」を求める世の中になったきたからかもしれません。

B君との出会い

 B君は、家庭ではとても良い子ですが、学校では暴れる系です。
 後から分かったことですが、消火器のいたずら、壁の穴などの多くはB君の犯行。3年生になると、若い先生への威嚇、授業妨害、下級生への恐喝などが目立ってきました。彼の主張は、先生は自由な服装をしているのに、生徒にはそれを許さないこと。先生は酒・煙草が自由のなのに、生徒は禁止なこと。
 たしかに、生徒たちから人気のある若い先生の多くは、ジャージや私服に近い服装で、職員室の喫煙スペースで煙草を吸っていました(まだ、そういう時代です)。
 B君の戸惑いは、スーツにネクタイの私が担任になったこと。私の価値観は、お仕事ではネクタイが普通でしたし、進路指導部では企業の採用担当との対応もあります。
 そんな彼の最初の威圧行為は授業中。ずっとおしゃべりしている生徒さんに、静かにしてねと言うと、突然立ち上がり、「うるせえんだよ、命令すんなよ」と絶叫しました。機会をうかがっていたようですね。
 その後、大人に対する不満を述べて、最後に「おう、殴ってみろよ。」と言い放って私に強い目線を送ります。いわゆる「ガン」ですね。
 私は、「暴力は振るいません。学校では、先生であっても暴力は振るってはいけないという時代になりました。そもそも、暴力で物事は解決できません。」と返しました。その時の彼の反応は思い出せませんが、その後、授業を普通に進めたことは記憶しています。 

翌日のこと

 田舎で、公共交通機関も十分ではありません。その学校では、原動機付自転車、つまりバイク通学は許可されていました。B君もバイク通学。
 翌日、B君は2時間目の私の授業中に登校しました。問題は、バイクで教室までやってきたこと。ドラマみたいですね。
 ドラマと違ったのは、バイクに乗ったままでは教室のドアを開けることができず、教室前で戸惑っているうちに、私が教室から出てきたこと。
 何か言っていましたが、フルフェイスのヘルメットを被っているので何を言っているかわかりません。バイク置き場に戻ってバイクを置いてから教室に入りましょう、わかったかい…と言っている間に、複数の先生たちがやってきて、彼は連行されてしまいました。まぁ、そうなりますよね。
 で、保護者の方に連絡です。
 保護者の方は、「その程度のことで何で連絡を寄こすのか」「うちの子供は先生方に嫌われていて、目をつけられているのではないか」「悪いことした時だけ連絡が来て、学校はそういう場所なのですか」とおっしゃいます。
 処分歴があるだけに、学校への不信感もあるでしょうし、保護者の方も困っていることがあるのかもしれません。ただ、保護者の方の前では素直なので、学校に何かがあるという思いは強いようです。
 今回については、こんなことを伝えました。
 ・2~4限は別室で事情を聴いたが、午後の授業では教室に戻ること。
 ・引き取りのための、保護者の来校は求めていないこと。
  ただ、放課後はまっすぐ帰宅するように本人に伝えたこと。
 ・本人も認めているが、担任に対する威圧や授業妨害をしようと考え、そのためにバイクで校舎内に入ったことは処分の対象になる。
 ・放課後臨時会議がある。結果は電話で伝える。処分の内容によっては、保護者と本人とに学校長から直接言い渡しがある。その場合、明日の朝、揃って登校してください。

 会議は揉めました。
 停学という意見の根拠は「累積」。過去にもいろんなことがあったので、厳しい処分と指導が必要というもの。わかります。
 結論は「訓告」となりました。
 翌日、始業前に校長室で「訓告処分の言い渡し」を行いました。
 それが終わると、B君は教室に戻り、いつも通りに過ごせます。
 いわゆる「お灸」ですね。 

不穏な空気が漂う

 B君が、バイクで登校して先生方に連行され、翌日処分があるということはB君の仲間たちの知るところとなります。
 事件の翌日の朝、つまり処分が伝えられる日の朝、私が早めに出勤すると、仲間たちはすでに登校していて、車を降りた私を取り囲みました。これね、結構怖いですよ。8人くらいいたと思います。B君を停学にするのは許さないということで、最初から喧嘩腰です。
 最初に思ったのは、その状況を他の先生が見たら、この8人が処分という話になるということです。次に、B君は停学ではないので、私を取り囲む必要はないということ。ただし、それはここでは言えません。
 さて、どうするかですね。で、こんなことを伝えました。
・処分内容をここで、皆さんに伝えることはできない。
・それは学校のルールというよりも、本人であるB君が知る前に、その内容を他者に伝えるのはおかしいと思うから。処分内容を知りたいならば、本人に聞いてください。先生が、生徒の処分内容をペラペラしゃべるのもおかしいでしょ。
 そう伝えて、8人が戸惑っているうちにその場を離れました。
 
 しかし、この頃から不穏な空気が漂い始めます。
 そして、あるクラスが学級崩壊します。
               
                          続く

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