見出し画像

突然吹奏楽部の顧問になる⑷

 時は「学校5日制完全実施」「ゆとり教育」が始まった頃。
 国公立大学合格者を増やすため、放課後・週末に「大学受験用の課外講習」「宿題・課題」が始まりました。放課後・土曜日に行われる「大学受験用の課外講習」と「部活動の時間」とが重なります。
 今までは、「生徒主体で気の済むまで自由にやらせる」という部活動でしたが、これからは「学習時間とのバランスを取りながら計画的に行う」という方向が求められます。さて、どうしましょうか。

基礎合奏という概念を知る

 高校時代所属していた市民オケ、そこに2人だけ高校生団員がいました。
 一人が私、もう一人がSさん。
 Sさんは、高校卒業後、音楽大学に進み、吹奏楽業界では有名な作曲家になっていました。顧問になって、早速彼に来てもらってバンドを指導してもらいました。
 当時は、メールもありましたが、電話で直接のことも多かったです。
 ⑶で書いた「吹奏楽部顧問あるある」を教えてもらったのもSさんから。
 職員室からの吹奏楽部批判は、あんまりまともに受け止めるとうまくいかなくなるバンドも多いから、ある程度流した方がいいよ。ただ、進学校のバンドは、「大学受験×吹奏楽」の両立で悩んでいるのも事実。
 で、制限のある中でどうするかなんだけど、サウンドトレーニングをすると良いよ。基礎合奏という考え方、練習方法があるから、それを取り入れてはどう。
 あなたの県で一番上手なX高校が、最近全国大会に2回連続で出たでしょ。あれね、基礎合奏を導入したから…というのは言いすぎだけど、X高校も進学校で、あなたの学校と似ている部分は多いから参考になると思う。
 X高校のZ先生のことは知っている。面識は?
 そうか、じゃあ、僕から連絡しておくから見学に行ったら。

当時、基礎合奏という概念はまだ一部の学校だけの…

 基礎合奏という概念・練習方法は、まだ一部の学校だけが行っているものでした。
 実際には、過去に発売された「吹奏楽全集」とか、ヤマハが出版している「バンドメソード」の中で、「その楽譜」「やり方」は公表されていたのですが、あまり活用はされていなかったようです。
 部長や学生指揮者など数名と、X高校に行き、X高校吹奏楽部の日常の練習に参加させてもらいました。レクチャーを受けるとか、合同練習いう感じではありません。普通の練習に混ざるだけ…。
 だからこそ…と言うべきでしょう。練習の精度やサウンドの重要性に気づくことができました。参加させてもらった部員は「目からうろこ」の連続だったそうです。
 顧問のZ先生は音楽の先生。お話してわかったのは、Z先生も地元は東京であったこと。池袋界隈のお話で無駄に盛り上がり、練習が終わると「基礎合奏の楽譜」を渡してくれました。
 「この楽譜はね、実は○○高校からもらったもので、さらにもとをたどると東京の○○中学のものだったそうなんだ」
 「まだ、あんまり普及していないけど、吹奏楽部の指導で悩んでいる先生には、基礎合奏の楽譜とやり方とを伝えていこう…ということで、今回はF高校吹奏楽部とあなたとにと思います」
 「頑張ってね。困ったことがあったら、いつでも連絡してください」

一流の人から一流の世界の価値観を学ぶことが…

 F高校で吹奏楽部の顧問となってからは、本当にしんどく、つらいことが多かったです。
 ただ、そういう立場になってから出会った人は、すばらしい人ばかりで…。そういう人々から「一流の流儀」みたいなものを学べたと感じています。
 たとえば、「音が合うまで、繰り返し練習する」ことも大切ですが、「音を、音程・音型・音色などの要素に分解し、それをサウンドトレーニングで揃えていく」という発想・練習を取り入れることで、「精神論・長時間練習」を少しずつ手放すことができるようになりました。
 物事には、「本質」と「作法」とがあります。
 たとえば日本の武道は、「礼で始まり、礼で終わる」という作法・様式美があります。これは、「武道の本質」を実現するための手段・方法です。しかし、作法が暴走すると、単なる精神論になり、封建的発想がハラスメントになり、本質から離れた活動になりがち…。
 音楽も同じで、音程を合わせることを優先し、音色などを犠牲にする演奏がないわけではありません。音程をあわせることは重要で、練習は音程に始まり、完成度は音程によって決まることは確かです。ただ、そのことで音楽の本質を喪失してしまうと…です。部活動としての吹奏楽部は、そういう方向に走りがち。
 もちろん、顧問の先生が優秀な音楽家で、指揮者として音楽を引き出していける先生ならば、生徒さんの練習は「作法」中心でもだいじょうぶでしょう。しかし、私は素人…。生徒さんが「作法と本質とのバランス」を理解して練習を進めることがこれから必要。
 顧問が変わったから…だけでなく、学校の体制や学習指導要領などの変化にあわせ、学業とのバランスも取りながら…という方向が求められてくる。
 そして、一流の音楽家と先生とは、そのことを理解し、解決を進めつつある。そういう人に出会えたことには、感謝以外の言葉がありません。

始業式・入学式の演奏を終える…

 指揮者デビューは、体育館。
 校歌の伴奏や、入退場の演奏。
 テンポが変わらない曲でよかったです。
 心の中で、「1・2・3・4」とカウントしながら腕を振る。
 カウントするとき、裏拍を感じるという、Sさんからのアドバイスを忠実に実行。
 練習は、通し演奏を録音する~録音を聞いて反省する~通し演奏を録音する~の繰り返しで乗り切ました。サウンドトレーニングも少しずつ取り入れてみました。倍音とか倍音とか倍音です。
 気が付けば、新学期。春休みっていつの間におわったの??です。
 
 春休みは、近代論のテキストを作りたかったのですけど…。
 結局、齋藤秀雄の「指揮法教程」と「和声学」を読んで終わりました。
 やばいです。本業・授業の方に支障が出てきました…。
                  つづく…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?