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パリお財布事変

フランスでワーホリが始まった2000年、ワーホリ1期生として意気揚々と渡仏した。その数年前フランス旅行をした際、通貨はフランの時代だったが、ユーロに代わり人々の生活に浸透して行った頃だ。

花の都、アムール(愛)、ロマンスの香りが充満するパリ。しかし実際は堂々と道の真ん中に犬の糞が主張し、惜しくも踏んでしまった輩はまさに糞を下品な言い方に変換して叫ばざるを得ない始末だ。

ワーホリとは当時週20時間の労働を許可されたVISAで、到着後すぐに運良くフランスの老舗デパート内にある日系の免税店に採用された。当時はバブル崩壊後ではあったがまだ日本からの観光客の羽振りも良く、朝はフランスの語学学校、午後からは日々接客と免税作業に追われた。日本から上客のご婦人が来店すると、店長が頭深々と来店のお礼を述べ、目で行けと合図され、デパート内の隅々まで個別にご婦人をアテンドし、値段を見ずに高級食器、高級婦人服、高級ジュエリーなど様々な商品を糸目をつけずに購入される姿に感激したものであった。パリスヒルトンや海外セレブがショップの棚の、ここからここまで全部、という姿を彷彿させる。

時には珍しいが現地のフランス人の来店もあった。「財布を見せて欲しいんだけど、、明日恋人の誕生日でね、、」ととても初々しい物言いで、頬をほのかに紅潮させたおそらくオリジンは北アフリカであろう黒い瞳と溢れんばかりのまつ毛のその男性は私に近寄った。「もちろんです、こちらへどうぞ」と、フランスを代表する高級ブランドでシンプルなデザインが並ぶショウウィンドーへお連れした。初々しい様相のままとても迷ったあげく、シンプルで上品なスタイルの財布をご購入された。たまには現地人の接客も楽しいなと帰路についた日であった。

翌日は非番につき、翌々日出勤すると、店長の下につく普段からカジュアルに接して下さる女性社員に呼び止められた。「おとといあなたが接客したフランス人のお客さんの話聞いた?」と神妙な面持ちながらも目が半分笑っている。「実は昨日プンプンで返品に来たのよ。恋人の誕生日に渡したお財布のプレゼント、女性用じゃないか!って恋人が激怒したって」コトを飲み込むとサーっと血の気が引いた。「え、恋人って、まさか、、男!?」と半叫びの私に、「まぁフランスでは良くある事だから、これからは気を付けてね」とウィンクして仕事に戻った。しかも彼は私を他の同僚と勘違いして「接客したのは彼女だ!」と怒鳴りつけたそうだ。たまたま非番だった私の身代わりになってしまった可哀そうな彼女にはいたたまれなく大層申し訳なく平謝り。。。

その彼は男性名詞でフランス語の「恋人」と私に言ったに違いないが、固定観念ですぐさま女性の恋人と脳内処理してしまった自分の浅はかさよ。。。様々な形のアムールの国で良い教訓になった。

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