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交換殺人考

 交換殺人というトリックを最初に考え出した人はセンスがいいと思う※1。かなりの数の小説・ドラマに採用されているから、画期的なアイデアだったことは確かだ。たしかにミステリーとしては面白いが、実際にこんなバカなことをする殺人者がいるとは思えない※2。その理由は後述する。
 
 ※1『見知らぬ乗客』パトリシア・ハイスミスが先駆的な作品と言われている。

 交換殺人の利点

●完全なアリバイを作ることが出来る。
●殺人の動機が入れ替わるために、本当の動機がわからなくなる。
●無関係な赤の他人同士の殺人だから、事件の関連性がわからず、個々の事件として処理される。

 交換殺人の欠点

○AとB、二人の殺人者が同等の立場でなくなると、犯行がバレやすくなる。たとえば、どちらかが貧乏になったり、社会的な地位が下がると、二人の関係は不均衡になり、どちらかが脅迫者へと変貌する可能性がある。
 経済的ではなくても、不治の病にかかったり事故に遭うとかすれば、犯行を自供したくなることもあるだろう。信仰に目覚めて、罪を告白するかもしれない。
○どちらかの殺人の動機が消滅して、二人の関係が不均衡になる場合もある。たとえば、親の遺産を得るために殺人を依頼したら、運良く親が事故で亡くなってしまった。自分を捨てた恋人に復讐しようとしたら、ヨリが戻った。秘密を知られて口封じに殺害しようとしたら、勘違いだった。といったことが考えられる。
○お互いにどこまで信用できるか、それが問題。先に殺しても、後から本当に殺人を実行してくれるかどうか、なにも保証がない。
 二つの殺人を同じ頃にすれば、どうしても目立つうえに、殺人の関係性がバレることもあるだろう。かといって、間隔を開ければ、それだけ後から殺すほうはその気がなくなるだろうし、逃げやすくもなる。
○二人の関係性が希薄なので、一度逮捕されたりすれば相手を売りやすい。かといって、親子や夫婦などの緊密な関係だとお互いを売ったりすることはないだろうが、関係が濃いゆえに目を付けられやすい。

※2 現実で何も関係がなかった二人がお互いに殺人を交換するというところがかなり無理筋である。約束を守るかどうかも不明なうえに、いつ脅されるかわからない。こんな状況で殺人をするというのはバカのやることだろう。リスクが多すぎるのだ。殺し屋に依頼するという話のほうがまだ説得力がある(実際に殺し屋に依頼した事件は海外ではいくらでもある)。
 だが、フィクションは別である。無理だと言われれば、やりたくなるのが小説家である。使われすぎて、もはや意外性はないと思われるが、サブトリックとして、他のアイディアと組み合わせれば、まだまだ活かせるはずだ。

 ミステリー作家的ポイント

 作家的なポイントとしては、次の箇所に作家的な工夫が求められそうだ。
○殺人者二人の関係性――無関係の二人をどうやって結びつけるか。例としては通勤中の列車内で知り合う。ネットで知り合うなどがあるが、ここに一工夫、趣向を凝らしたい。というのも、無関係な二人がどこで知り合ったか、そこが事件解決へとつながる重要な鍵となるからだ。
○事件後、二人の関係性がどう変化するか。ここもストーリーを盛り上げるサスペンス要素として重要なポイントである。
○交換殺人のリスクを軽減するようなアイデア(あるいはそうした状況・設定)があれば、リアルで面白い物語を作れるかもしれない。

以上、可能性を秘めているジャンルであるとは思う。

 

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