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ミステリー入門3 合作のすすめ

 

合作はミステリー創作に向いている。

 ミステリー小説の創作方法の一つとして合作が考えられる。
 文章には自信があるが、トリックやプロットが浮かばない。いいアイデアがあるんだが、いかんせん小説を書くのが苦手だ、面倒だ。
 こうした人をうまくマッチング出来れば、傑作ミステリーが書けるかもしれない。
 坂口安吾は次のように書いている。

 多作して駄作を作らぬ方法として、私は探偵作家に合作をすすめたい。
 外国には二人、三人合作して一人名前の探偵作家はかなり存在するのであるが、日本にはまだ現れないようである。
 推理小説くらい、合作に適したものはないのである。なぜなら、根がパズルであるから、三人よれば文殊の知恵という奴で、一人だと視界が限定されるのを、合作ではそれが防げる。知恵を持ち寄ってパズルの高層建築を骨組堅く組み上げて行く。
 十人二十人となっては船頭多くして船山に登る、という流れになるが、五人ぐらいまでの合作は巧く行くと私は思う。
 坂口安吾 探偵小説とは――より引用。

 

合作の様々な形

●小説工房 
プロダクション方式で小説を量産する。プロデューサー役がしっかり手綱を取らないと、バラバラになってしまう。
タレントを集めて、エッセイや小説・ノンフィクションなどを大量に制作する方法もありそう。
※実例 浅黄 斑 
 大量の小説の注文を受けるためにプロダクションを作り、様々なジャンルの小説を制作しようと考えた。営業・プロット作成・取材・資料集め、執筆など。最初はうまくいっていたが、次第に金銭的なことや、独立する作家が出て挫折。
●共用ペンネーム(覆面作家) 
一つのペンネームを複数作家が使用する。量産は可能だが、ジャンルや文体などが作品によって違うことに違和感が。以下ネットから参照。
※鷹見緋沙子 著書に書かれた略歴以外は正体不明の覆面作家であったが、実態は中島河太郎を相談役として生まれた、大谷羊太郎、草野唯雄、天藤真の共用ペンネームである。当然、著書に書かれている略歴(1943年神奈川県横浜市生まれ、東京女子大学中退等)はすべて架空のものである。
●共用キャラクターシリーズ
 基本的なキャラクターや世界観などを決め、複数作家で作成。量産は可能、問題はシリーズ化出来るほどの魅力的なキャラや世界を構築できるかどうか。
※宇宙英雄ペリー・ローダン 草案作家のシノプシスに沿って、複数作家による執筆がなされているリレー小説。
※『伝七捕物帳』陣出達朗らによる日本の時代小説シリーズ。捕物作家クラブ(現・日本作家クラブおよび日本文芸家クラブ)参加の多数の作家による合同企画として「黒門町の傳七捕物帳」と題して京都新聞に連載された後、陣出達朗が単独で『伝七捕物帳』シリーズを執筆した。
※ドラマ「ネメシス」四月より放送される日本テレビ系新ドラマ「ネメシス」に、講談社タイガ編集部と気鋭のミステリ作家たちが脚本協力として参加、またその作家陣が書き下ろす小説版「ネメシス」シリーズを続々と刊行。
出版社である講談社が複数の小説家とともに、原作の提供という形ではなく、ドラマの制作メンバーの一員として脚本協力するのは初めてのこと。
●リレー小説
遊びでやるなら面白いかもしれないが、量産は難しそう。首尾一貫したストーリーが出来るかは参加した作家次第。今でもたまに行われる。次の作者にヒントや伏線などをあらかじめ教えておくらしい。親睦団体などの催しでやるといいかもしれない。
※江戸川乱歩 リレー連作小説 耽綺社同人シリーズを作り、売れない作家に書かせようとしたが、次第に皆売れ始め解散。
海外(ディテクション・クラブ)1928(ないし1929、1930)年にアントニイ・バークリーを中心として設立されたイギリスのミステリ作家の親睦団体である〈ディテクション・クラブ〉から刊行された。
 アガサ・クリスティー、F・W・クロフツ、ジョン・ディクスン・カー、ドロシー・L・セイヤーズなど、黄金時代を代表する錚々たる顔ぶれが参加している。
吹雪の山荘 (リレーミステリ) 笠井潔,岩崎正吾,北村薫,若竹七海,法月綸太郎,巽昌章が参加。

 

合作のメリット・デメリット

○隅々まで考え抜かれたプロットと文章の小説が出来る。
○量産が可能。
○取材やプロット作成、文章などの得意とするところに集中出来る。

●二人の分担が崩れると、空中分解しやすい。
●作業量や収入などで内紛が起きる。

 結局うまく行くかどうかは合作者の関係を維持出来るかどうかにかかっているようだ。合作者に夫婦や親子、幼なじみ、友人という結びつきが強い関係の二人が多いことからもわかる。
「おかしな二人―岡嶋二人盛衰記」井上夢人――が参考になる。

こんな合作はどうだろう

 ○○という小説には代作者がいる、といったゴーストライターネタはフィクションにはよく出てくる。これを変形させて、共作者ということにすればごまかせるのではないか。
 例えば、女子高生や女子大生(もちろん美人)を表に出して人気を集める、あるいは新人賞に応募する。履歴欄には合作であること、それぞれの担当を記載しておけば問題はない。
 例えば、共作者が大学のミスコン受賞者だったとしたら、応募作にそれを活かす(ミスコン殺人事件)などの手段を取れば、共作する意味が出てくる。
 実際にプロットから原稿まで書いているのは腹の出たおじさんだとしても、合作しているという名目があれば、問題はない。受賞者が若い女性なら売りやすいと考える版元もいるかもしれないので、受賞率は上がるだろう。
 受賞後、女性のほうは取材や資料集め、プロット制作をしているといえば、世間もうるさく言わないだろう。美人と言うだけでは飽きられるかもしれないが、その後タレントになるという手もある(小説を二、三冊書いただけでタレントとして稼いでいる人もいる)。
 実作者は合作をやめても、また誰かを共作者にする(人気ユーチューブバーとか)ことも出来るし、また新人賞に応募することも出来る。中身は同じだが、包装紙だけを代えて新しい商品のように見せかけるみたいなものだ。
 事前に契約書を交わして、印税や秘密保持などを決めておくと、あとで問題が起きることを防げる。ポイントは実作者の正体を世間から隠しておくことだ。
 最近は新人賞で再デビューする作家も多いが、商品価値の高い人と共作して、応募するという手もある。印税や賞金は折半しても、話題性で受賞作が売れればいい。一人で書いても受賞したかもしれないが、再デビューしても今では話題性はなく、それほど売れないだろう。プライドを捨てても実利を取って、共作を偽装する価値はあるのではないか。
 売れない作家同士が共作するという手もあるが、うまくいく可能性は低いだろう。だが、相性次第では、お互いの欠点を補い、傑作が出来ることもあるかもしれない。



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