言葉にこだわるということ

言葉遊び

 それは、ついこないだ言われた。
  「そんな言葉にこだわってないで…」
 大学四年に上がり、初めて自身の卒業研究についてゼミで発表したときだった。考えを的確に伝えることができなかった、自分の責任ではあるのだけれど、単に言葉遊びをしているだけかと思われたのだろうと、もどかしかった。
 僕は、「言葉遊び」といって、切り捨てる人たちは、自分の首を絞めていると思っている。それが本当に単なる言葉遊びならいいのだけれど、そこに託された発言者の意図に気づけない、そういう何らかの可能性を考慮していないと自分で宣言しているようなものじゃないか。私はそこまで、深く頭を巡らせられていないですよと。まぁ問題の所在が別の所にあるから、そう言って故意に同じ土俵に乗らないという場合もあるだろうけど。

言葉にのせる、かける

 いちいち、僕なんかが書くことではないけれど、言葉というのは、その人の思いがつまって紡ぎ出されるものだ。
 そのゼミの時だって、ずっと考えてきたことをうまく人に伝なきゃいけないと思ったから、いつも使うような意味とは一旦距離を置いて、この文脈で捉えてほしいと、レジュメでは引用符で区別を強調した。
 確かに、僕の準備不足の口下手で、単純に言語化できなかっただけというのもあるけれど…
 それでも、僕は、なんとも言い難いこの思いを、(卒業研究のテーマ発表にあたり)問題として浮上させるために、人に伝えるために、そういう言葉遣いをしたのだ。

 端的に言ってしまえば、僕は、「言葉にかけた」のだ。今はまだ、うまくまとめられないけれど、引用符でもって、何とかこのモヤモヤさえは伝えられないかと。別に、その数分ですべてが分かるような問題系ではないから、なおさら、「まぁ、こいつなりになんか考えてんだなぁ」ぐらいには。

モノとコト

 そりゃ、モノを指し示す言葉であれば、単語と意味は一対一対応する。今、たたいているこのキーボードは、「」で括ろうが、“”をつけようが、キーボードはキーボードでしかない。いつ、だれが「キーボード」と言っても、それは辞書を引けばあたる「キーボード」だ。あったとしても、楽器の鍵盤か、PC機器のそれかの違いぐらいで。
 では、コトの方はどうか。現象といってもいいのかもしれないが、同じ状況に出くわしても、人それぞれで、感じ方や捉え方が違うだろう。
 たとえば、「降雨」はどうか。「雨」は科学的に定義できそうだ。しかし、天気予報で聞くときと、第一次産業従事者にとってのそれと、小説におけるそれはどれも違った意味を感じさせる言葉だ。

 こんなこといっても、小説家にとってのキーボードと、僕がこんな駄文のために使うキーボードは違うだろうという人もいるかもしれない。モノだって、コトと同じように、その言葉が単なる記号以上の意味を持って認識される場合もあると。
 確かに、そうだ。僕にとっては、大量生産の一商品にすぎないモノだったとしても、それを使って唯一無二の詩をかたちにしている人だっている。何か特別に作られたモノでなくたって、実際にそれから作品を創り出しているわけだから、彼は、いち鉛筆だって、欠かせない大切なもの、相棒とまで思うだろう。ともすれば、僕の鉛筆と彼の鉛筆は決して等価ではなく、置換できない。「鉛筆」といっても、それは「紙に文字を書くための道具」には回収されない意味を時として内包している。

 何が言いたいかというと、モノにしろコトにしろ、言葉は語る人それぞれに特有の思いがのっているということ、単なる文字の羅列にも思いが重なってみえてしまうということ、必ずしも単純に辞書を引けば理解できるような類のものではないということだ。
 あまり、こういう二分法を使うべきではないかもしれないが、あえて言うなら、(これは多分に僕の経験則なのだが)文系と理系の違いが現れるところだと思う。専門用語が全て○○辞典等で解決するような分野だとなおさら。
 もちろん、わからなかったら辞書を引くのは当然の行為である。しかし、それらは、博物館がそうであるように、収集にあたって“汚い”文脈から切り離され、漂白されてしまったものにすぎないのではないか。
 まぁ、単に、どこまでその言葉に意味を持たせるかどうか、読み取るかどうかの問題で、時と場合で臨機応変に対応すればいいだけのことかもしれないが。

それから

 本当は相手の言葉なんか、決して分かりえないのかもしれない。しかし、いや、だからこそ、その一致するところまで限りなく近づいていく努力はすべきで、それが他者理解であるし、多様性社会というものの実現に不可欠な営みであるだろう。
 いろんな解釈の余地を確保するために、わざわざ似たような言葉を使いわける。なんて、分かりにくく、非効率で面倒くさいんだろう。
 ただ、「言葉にこだわる」、それは、きっと、より人間になるということでもあるんじゃないか。


2023/6/13 
・初投稿からこんな感じ…深夜テンションです。走り書きです。
・文章の90%は、ゼミの仕打ちに対する腹いせと自分の低能力からの逃げです。
・【モノとコト】は言いたいこととなんか違うなぁ。ズレてる。


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