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第1回目振り返り

1.受講動機

  私は2019年に絵本セラピストの資格を取ったのですが絵本については子供や孫の幼い時に絵本を少し読むくらいの経験と知識でしたので、ともかく絵本について学びたい、絵本についてもっと知りたいと思いゼミには第2期から参加しています。第2期では「いい絵本の条件」ということで昔話絵本、科学絵本、ファンタジー絵本などの特徴を学ぶことができました。特に科学絵本という分野があることを知り、最後のグループワークの研究では2011年3月11日の東日本大震災を科学的にとらえた写真絵本『大津波のあとの生き物たち』永瀬嘉之 少年写真新聞社 2015年を使い、オンラインの絵本の会で東日本大震災が生き物たちに与えた影響と人間の共生について仲間たちと考えることができました。
 第3期では世界3大絵本賞といわれるコールデコット賞、グリーナウエー賞、国際アンデルセン賞などを受賞した絵本と絵本作家について学び「子供にとって良い絵本」とはどういう絵本なのか、絵本作家が何を大切にしているのか、絵本の歴史などに触れ、絵本の持つ魅力や絵本の力に触れることができたと思います。ロングセラー絵本になっている絵本は子供から高齢者にとっても生きる喜びになっていることをまとめることができました。
 第4期も引き続き絵本の知識を蓄えそれを自分が主催する絵本の会などに生かしていければと思っています。このゼミでは様々な年齢や背景のある方たちとの出会いや学びが絵本の学習以上に多くあり、これからの自分の生き方についてたくさんの刺激をもらっています。絵本と絵本の仲間から「どう生きていくか」を学び合いたいと思っています。また今期はFAとして未熟ですが皆様に教えていただきながら楽しく学びを深めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

2.第1回目振り返り

この振り返りはゼミで今回学んだ知識を私のブログを読んでくれている仲間に伝えたいと思います。

2-1『ちいさいおうち』とヴァージニア・リー・バートン

今日は1943年にコールデコット賞を授賞したヴァ―ジニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』についてご紹介したいと思います。

『ちいさいおうち』の絵本を8歳のお誕生日の時に叔母様からプレゼントされてそれからずーと大切にしているという方やこの絵本が大好きで初版本、英語版と集め『ちいさいおうち』の表紙のブルーと白のお洋服ばかり着ていた、という熱心なフアンのかたがたくさんいらっしゃいます。
もしかしたら、きっと皆さまの本棚にも『ちいさいおうち』があるかもしれませんね。ぜひ本がある方は手に取ってみてみてください。
表紙の「ちいさいおうち」を囲っている2重の円の中にはかわいいデイジーがあしらわれ、裏表紙のデイジーの真ん中には太陽が描かれていることもご存じでしたか?また見返しには馬から馬車、一輪車、2輪車から自動車と
「ちいさいおうち」と時の流れが一目で追えるようになっています。
最初のページをめくるとデイジーで作った花の環の中にかわいらしいちょうちょが飛んでいるのです。そして一日の太陽の動きや月の満ち欠けがとても面白く興味を誘います。もうそれだけでワクワクしてしまいますよね。

2‐2『ちいさいおうち』のお話


『小さいおうち』ヴァージニア・リー・バートン文・絵 石井桃子訳 岩波書店

このお話は丘の上の小さいおうちの物語です。
幸せな家族の生活と美しい自然の四季の移ろい、
そんな幸せな毎日が遠くから作られてきた道路で変わっていきます。
小さいおうちの周りはどんどん都会になります。
ある日小さいおうちの子孫がやってきて小さいおうちを
元の丘の上にあった時と同じような場所に
引っ越しをするというお話です。

2‐3ヴァージニア・リー・バートン

 この絵本の中の最初に描かれているひげのちょっとスマートな男性はバートンの夫、最後の場面でスケッチをしているはバートン自身。そしてリンゴの木の下のブランコは二人の子供たちのお気に入り、登場人物はそのほかに親族や友人が書き込まれているといいます。彼女はすべての作品をわが子とその友人らにまず読んで批評をもらってから作成したとのことです。
ヴァージニア・リー・バートンはヘビースモーカーで残念ながら59歳の若さで亡くなりました。
 最後の作品の「せいめいのれきし」では銀河系の始まりから人類の歴史を通覧し現在の個人へと時の流れの壮大な物語が描かれています。
 ヴァージニア・リー・バートンはアメリカ絵本の開花期で最も価値ある仕事をされたと評されています。

3『ちいさいおうち』と翻訳家石井桃子

この「ちいさいおうち」を翻訳して日本に紹介したのは石井桃子です。「ちいさいおうち」が制作されたのは1942年。それから12年後の1954年に日本で出版されました。
 石井桃子が『ちいさいおうち』を翻訳するまでの生い立ちと翻訳家として何を大切にしていたかをご紹介したいと思います。

3‐1翻訳家石井桃子

 石井桃子は1907 年(明治40年)に生まれました。2008年(平成20年)まで「のんちゃんくもにのる」の作家として、岩波書店の編集者として、子供文学・児童文学論の研究者として、かつら文庫、東京子ども図書館の創立者としてそして翻訳者として101歳の生涯でした。

3‐2石井桃子の生い立ち

 石井桃子は4人の姉と一人の兄、両親と祖父母の大家族の中で育ちました。小学校2年生の時の学級文庫で世界や日本の昔話『ふしぎの国のアリス』や『アラビアンナイト』など面白い本がたくさんあり本の魅力に取りつれようです。日本女子大学では英語を学びました。卒業後は英語を生かした仕事をしたいと思っていたところに菊池寛氏から「リーディング」のアルバイトをしてみないかと声がかかりました。それがきっかけでのちの菊池寛氏が設立した文芸春秋社の女性雑誌「婦人サロン」の編集者の一人として起用されたのです。
 

3‐3石井桃子と翻訳

 石井桃子の初めての翻訳は『くまのプーさん』岩波書店で1940年12月に刊行されています。『くまのプーさん』に出会い「どういう本が子供の本としていい本なのか」その基準を探していくことが生涯の仕事の一つになりました。石井桃子が子供の本の編集のやり方を覚えたのは戦争中に山本有三に声をかけられて関わった新潮社「日本少国民文庫」の編集だったそうです。新潮社「日本少国民文庫」は子供にとって最高のものを目指そうとして各界の一流の方を集められ作られたのです。

3‐4石井桃子の夢

 石井桃子には2つの大きな夢がありました。一つめは小さい農場を経営すること。2つ目は子供のための図書館を作ることでした。
 大学を卒業後、犬養毅が亡くなった後の犬養毅の書庫の整理を頼まれていた縁で「白林館少年館」という子供のための小さな図書室と「白林館少年館出版部」を自ら作りました。時代の背景もあり短い期間でしたがこの経験がのちの東京子ども図書館の創立へとつながっていきました。

3‐5『ちいさいおうち』の翻訳


戦後岩波少年文庫の編集者兼責任者として働くようになった石井桃子は
『小さいおうち』の翻訳に取り掛かります。『ちいさいおうち』のテーマは「時」。目に見えない時の流れを目に見える形で子供たちにどのよう提供できるか工夫が必要でした。

バートンはコールデコット賞受賞のあいさつの中で「太陽が上がったり沈んだりすることは一日の時間が過ぎていくことを、また月が満ちたりかけたりすることは1ヶ月の推移を、そして四季の移り変わりは1年が束の間に過ぎていくことをあらわしている」ひとたびこのリズムをつかめば、子供たちは変化や時間のひろがりの概念をつかむだろうと考えました。

『バージニア・リー・バートン』バーバラ・エルマン宮城正枝訳  p39
 岩波書店 2004

翻訳者の石井桃子は「ちいさいおうち」を日本語に訳するにあたって一番大切にしたのは「ちいさいおうち」という主人公が「どう生きるか」という物語として読み解くことで原作者バートンの思いを伝えました。

3‐63つの工夫

石井桃子は絵本のこども読者がどう絵本を読むかを常に考えられていました。絵本の主人公になりきって物語を楽しむ子供の読み方を大切にしたといいます。子供を理解するために認知心理学なども学んだそうです。
そこで注目したのは文字を読めない子供は①読んでもらうお話を耳で聞いているということ②絵をじっくり見ているということ③文字も目で見ているということでした。
 『ちいさいおうち』の始まりの部分「むかし、ずっといなかのしずかなところにちいさなおうちがありました」とお話を日本の昔話的に翻訳をされています。そして「・・ました」という文章を重ね繰り返しの中で耳でリズムを積み重ね「時」の流れをこどもにわかるようにしました。また主人公が「おうち」なので不自然にならないように「おうち」のセリフとして訳されています。バートンが大切にした文字の視覚的特徴(文字面の形と大きさ)タイポグラフィーを石井桃子も重んじた訳をしました。
 石井桃子さんはヴァージニア・リー・バートンが意図した小どもの読みに合致させると同時に日本の子供の読者が分かりやすいように工夫を凝らし訳されました。

おわりに


 ヴァージニア・リー・バートンは作品を出す前に必ず自分の子供たちに読んで聞かせて反応を確かめたそうです。石井桃子さんは翻訳をするにあたりまず子供の特徴を学習し子供がどの様に絵本を読むか研究され、子供の絵本に答える様な絵本の形や翻訳の姿勢を獲得されていきました。
「ちいさいおうち」は80年の長きにわたりロングセラーとなり、日本語版では石井桃子訳が今でも読み継がれ、多くのファンを虜にしているのは、熱心にただただこどもたちのために、こどもに寄り添ったあたたかい視線があったからこそだったのですね。

参考文献

『石井桃子』竹内美紀 あかね書房 2018
『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』竹内美紀
  ミネルヴァ書房2014
『ヴェージニア・リー・バートン』宮城正枝訳 岩波書店 2004
『ベーシック絵本入門』生田美秋 石井光恵 藤本朝巳 ミネルヴァ書房             2013
『絵本をひらく』谷本誠剛 灰島かり 人文書院 2006
『アメリカの絵本』吉田新一 朝倉書店 2016  





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