ただ、扉が開くのを待っている(小さなオルゴール)1185文字#青ブラ文学部
僕は、いつも待っている。
静かに……
そっと……
ずっと………。
◈◈◈
彼女の邪魔にはなりたくない。
それに、彼女の事を一人で思う時間も嫌いではない自分が居る。
けれど、いつも待ってばかり居る僕の姿は、友人である政時(まさとき)の目に少し余るようだ。
「いつまでこんな半端な関係でいるつもりだ?」
「中途半端って?……彼女との関係の事?」
「他に何があるってんだよ!」
「…………ないね」
彼女と僕の関係は、簡潔に言うと"セフレ"という言葉が合っている気がする。
彼女とは大学生の頃に知り合い、僕が一方的に恋心を持った。一度勇気をもって思いを伝えたけれど、彼女の返事はさっぱりとしていて『自分は誰とも付き合わないし結婚もしない』という返事だった。
彼女にこう言わせるのは、彼女の幼い頃の環境にある事を、僕は知っている。
それでも少し鬱陶しい程に、独りよがりに、僕は、彼女に気持ちを伝えてしまった。伝え続けてしまった。
それからだ。
彼女と、こういう関係になったのは。
それでもいい。
僕は、それでも良かったのだ。
◈◈◈
「本当に、何で自分が悲しい思いをする方へ行くかな…」
僕が淹れたコーヒーの中に、政時はテーブルの上に置いてあるスティックシュガーを一本取り、コーヒーの中に入れる。
僕は大学卒業後、IT関係の仕事に就いた。基本的には在宅で、とても自由がきく。そんな僕の家に、政時はこうして、たまにやって来るのだ。
「これからどうなるのか…まあ、静かに見守っててよ…」
「そうだな。そうするよ…」
政時は、あまり詰め寄って来ない。
程よいお節介や小言は、何だか少し心地が良い。僕は、友人に恵まれたのだ。
◈◈◈
夜の七時。
政時は僕の家にあった食材でパパッと美味しい晩御飯を作ってくれた。
それを二人で食べて片付けて、政時は帰って行った。
静かになった部屋の中で、僕は今日もスマホが鳴るのを待っている。
ずっと、ずっと待っている。
その時………
ピンポーン。
家の呼び鈴が鳴る。
「何か頼んだかな…?」
疑問を思いながらモニター見る。
「………………………っ!!」
モニターの画面に映っていたのは、少し疲れた顔をした彼女だった。
僕は急いで玄関の扉を開けると、彼女は直ぐに抱きついてきて「いきなり訪ねてきてごめんね。」と言った。
僕は嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、「ううん。大丈夫…、待っていたよ……」とだけ伝えた。
◈◈◈
……僕の気持ちは、小さなオルゴールの様だ。
そんな小さくても綺麗なオルゴールという名の宝物の中で、今にも溢れ出しそうな気持ちを僕は感じている。
そして待っている。
いつも待っていた。
待つことしか出来ない。
彼女が、僕の小さなオルゴールの扉を開けてくれるのを…
静かに……けれど、熱情という名の恋心や恋慕の気持ちに巻き込まれながら………
「っ、………好き………」
「ふふっ……僕もだよ………」
『……………っ……』
僕は、これからも変わらず、彼女を待っている。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました
山根あきらさん。
ありがとうございました。
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