ふわふわ漂う綿毛の様に(エッセイ)
何年か前に、ベランダにたんぽぽの綿毛が落ちてきた。
けれど、その綿毛が落ちた場所は、土も何もない冷たいコンクリートの上だった。
これじゃあ、たんぽぽの綿毛の使命が果たせない。そんな事を勝手に思った私は、近くにあった植木鉢の土の中に、その落ちてきた綿毛を埋めてあげた。
あわよくば芽が出たら良い。
そんな気軽な気持ちで不恰好ながら植えたのだが、その日から暫く経ったある日のこと。
植木鉢の中の綿毛を植えたであろう場所からは、たんぽぽが生えてきていて、綺麗で可愛い、黄色い、一輪の花を咲かせたのだ。
「えっ……咲いた?」
もしかしたら、私が植えた綿毛の後に何個かまた違う綿毛が落ちてきて、それが根付いて花を咲かせただけなのかもしれないが、それでも確かに、私が綿毛を植えたその場所から、一輪のたんぽぽの花は花開いたのだ。
私はこの時の事を、小さい小さい箱に入れ、忘れた頃にパカッと開けている。
私にとって、この時の事は若干の奇跡にも近い様に感じていたし、嬉しくもあった。そして植物の生命力の強さを見て、何とも言えない気持ちが溢れそうになっていなとも思う。
そして私は思った。
こんな風に、このたんぽぽの様に過ごしてみたい。無理なことは十分、分かっているけれど、それでも、たんぽぽの綿毛の様に時期が来たら風の流れに乗って飛んでいき、新しい場所にまた根を生やし、花を咲かせようとする。
ふわふわ漂い、さらさら流れ、辿り着いた場所に静かに根付く。
……そんな姿が、何だかたまらく羨ましい。
たまに自分自身に感じる閉塞感を落ち着かせながら、騙しながら、また綿毛が飛ぶ季節が訪れてくる。
ふわふわ漂う綿毛の様に、私も軽く翔んでみたい。
ひらひら舞うように、漂ってみたい。
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