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可か不可かでもない、ただの言葉 #青ブラ文学部

今から大雨が降ってくれないだろうか。

今から大雨が降れば、試合は一旦中止か、中止になって、やり直しになる。

やり直しになるって言っても、試合は継続されているから、スコアは今日の今のままのスコアで、試合が再開される訳だけれど……。

それでも、雨を願わずにはいられなかった。

………けれど結局、祈りの雨は届かなくて、空はピーカン…。


ピンチだ。

非常にピンチだ。

ノーアウト、ランナー1、3塁。

バッターのカウントも
ツーボール
ワンストライク

次の球を、間違いなくバッターは狙ってくる。そんな気がする。

もし今のバッターにヒットを打たれたら、リードしていた俺達は同点にされ、尚もピンチは続いていく。

これが、まだ中盤とかだったらまだしも、今はもう7回、厳しさは増してくる。

それに、この試合は、俺達野球部の復部から、初めてのベスト4がかかっている。

春の大会。

されど、春の大会なのだ。

こんな事をマウンドの上でぐるぐる思っていると、パチンッ!と目の前で音がした。

音のした方に目を向けると、内野の皆とベンチから伝令に出された2年生投手の環(たまき)がいた。

「灰崎(はいざき)〜大丈夫か?」

キャッチャーの大貴(だいき)が声をかける。

「へ、平気」

「いや〜、今はまずいですな〜」

サードを守っているタカが言う。

「まずいけど、ミスとか重なってたから、まあ、自分達ですね。」

セカンドを守る幹也(みきや)が続く。

「色々な事を考えて整理だよね」

ショートの怜(れい)が言う。

けれど、そんな中で大(だい)の言葉はシンプルだ。

「大丈夫だよ。大丈夫…」

皆が大の方を向く。

主将の言葉に、耳を傾ける。

これから起こるであろう想定の話を皆でまとめ対策を立てた。

けれど、そんな皆で立てた対策よりも一番大きいのは、大の「大丈夫」という言葉の持つ威力だ。

きっと、今、本人の頭の中は大丈夫とは言いながらも、『あ〜やばーー』とか、『ラムネを食べてラムネのブドウ糖を頭に回したい!』とか考えてそうだな〜とは思うものの、俺を始め、チームメイトはそんな大の『大丈夫』という言葉を素直に信じて鵜呑みにする。

可か不可かでも無く、出来るか出来ないかでも無く、ただ『大丈夫』という言葉を俺達は信じ、力にしている。

大の持つ、不思議な言葉の力。

「みんな〜!!しまっていくよ〜!!」

『うえーい!!!!』

祈りの雨は振らなかった

けれど、

大丈夫という名の言霊は、今この時、確かに降り注いだのだ。

〜終〜


こちらの企画に参加させて頂きました。

山根あきらさん。
ありがとうございました。

つい先日も地元の高校野球の観戦に行った為、また野球の話になってしまいました。

ここまで読んで下さりありがとうございました!

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