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透き通るような感覚(エッセイ)

祖母のお通夜の日。
納棺師の方が訪れ、祖母の最後の仕度をしてくれた。
納棺師の方は男性で、言葉使いは丁寧で優しく、そして、所作の一つ一つが洗練されていて、これがプロ。という世界を感じた。

白装束に着替えをする時は肌が見えない様に白い布を祖母の体の上に纏わせながら、慣れた手付きで、丁寧に着物を着させ、そして髪の毛を整える時はドライシャンプーで髪を優しく触り、ドライヤーとブラシを使いながら、髪の毛を整えていく。あっという間にサラサラの綺麗な髪の毛になっていき、お化粧もして綺麗な肌になっていった。

その一つ一つの仕度が整うのを見ながら、私は何ともいえない、けれど、例えるならば澄んでいくような空気感を感じた。
一つ一つ整っていくごとに、何かの風が吹き抜け、優しい渦の様なものを巻き上げ、それに包まれていく、本当にそんなものが見えた訳ではないけれど、今までの空間の空気とは、違う空気を感じたのだ。

こんなふうな感覚を覚えたのは初めてで、とても不思議だった。けれど、男性の納棺師の方は最後まで優しく、繊細にしなやかに、祖母の最後の旅の仕度を整えてくれた。
祖母の表情は、眠っているだけで、今にも起きそうな。そんな表情に見えた。

私はこの時初めて、納棺師の方が仕度されるのを間近で見たのだが、こんなに静かで、丁寧で、透き通るような感覚を受けるとは思わなかった。

透き通って流れていく。


そんな、時間だった。

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