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意外とロックな芸人 永野による凄い一冊

皆さん、芸人 永野についてどんなイメージがあるだろうか。今や世間では永野といったら永野芽郁である。芸人 永野のイメージなんて消えつつある。ひょっとしたら名前を聞いただけで失笑してしまう方も多いかもしれない。

「え、あの、ラッセンだけの一発屋でしょ?」
「見た目キモいだけのチビのおっさんでしょ?」
「レギュラーも特にないしゲストに呼ばれても結果を大して出せない残念なおっさんでしょ?」

そんな世間の心無い言葉が聞こえてくるようだ。
実際僕もそう思っていた。何なら今もちょっと思っている。それはさておき。

(なお、本稿においてはこれ以降永野といえば永野芽郁ではなく芸人 永野のことなのでご了承ください)

しかし世間と違って僕は永野のトーク力を意外と評価してたりもした。いやマジで。そんな僕が永野のイメージが90度くらい変わった本がある。それがこちら

この本が凄い。何が凄いかって本の見出しにもある通りあの永野がニルヴァーナやナイン・インチ・ネイルズ、オアシス、レディオヘッド、ブラーといった90sの伝説的かつ現役バンド(ニルヴァーナ、オアシス以外)について語っているのである。

ただ、それだけで僕は衝撃だった。
だって永野ってあの芸風からして洋楽を聞きそうにもなかったから←失礼

(ちなみに永野もラッセンで売り出し中の頃は、自分のそういう洋楽好きの要素がマイナスになるかと思い「ミニモニ。が好きです」と語ってたそうな。なお、本当に好きでもないから話を掘られると困ってたらしい。詰めが甘いぞ

「あ、ラッセンだけの一発屋のダサいおっさんじゃなかったんだ」って洋邦問わずロック好きの僕の好感度は上がったし、逆にあの永野がどうロックについて語るのかとても興味が出て、読んでみた。

とはいっても、永野自身も告白する通り彼に音楽の専門知識などあろうはずもなく、あくまで1人の音楽好きとして好きだったりそうでもなかったりする音楽について音楽好きの素人としての意見をフツーに語っているのだ。フツーに。

しかしその角度が面白い。

というのも、ロックが好きで色々音楽雑誌を読んだことのある方には伝わるだろうが、音楽雑誌のミュージシャンの持ち上げ方には気持ち悪さがある。

やれ最高傑作だの革命だの本物の音楽だの世界を変えるだの大言壮語を振りまき、アーティストを徹底的に美化し完全に内輪向けの様相を呈しているのだが、そこがロック畑ではウケたりするのだからタチが悪い。

とはいいつつ恐らくライターも本気で褒めそやしてるのではなく、飯の食い扶持だからこそおだてまくってアーティストを押し上げ、ファンを喜ばせ、雑誌の売り上げも上げようとする姑息な販売戦略ゆえなのだが、永野は芸人だ。

アーティストを美化する必要がない
そしてそれゆえの歯に衣着せぬ物言いが面白い。

たとえばリンプ・ビズキットに関する永野評がこちら

「売れて、女にモテてウハウハで、中身ないのにシャウトで誤魔化して、深み出そうとバラードも歌うんだけど大したことなくて。なんか大したことないくせに調子こけるのが良かったんだよなあ。」

ボロカスじゃないですか?
勿論、リンプ・ビズキットなんて一時期一世風靡しただけのバンドだ。そりゃもうネタにされ周りからも嫌われ散々な評価を得てるけど、ボロカスに言いつつも愛も感じるし上手く的をえている感じもいい。

他にもこちら

「『キッドA』(レディオヘッドのアルバム)はもう額縁に入った音楽鑑賞会みたいなイメージ」

「(オアシスについて)雑誌ではビッグマウスだから、こいつらどんな凄い音楽やってるんだろう?と思って観たのになんか伝統音楽みたいなことをやってる」

「オアシスはM-1決勝に行く音楽 ブラーは絶対二回戦で落ちる」

「(レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテについて)でもまあこの人はクスリで死ぬんだろうなと思いながら見ていた」

はっきり言って失礼である。
全ての意見に納得できるわけじゃ勿論ない。でも失礼ながらもどこか納得できるというか、「そうそう」と頷ける面もある。
こういうことは間違いなく音楽雑誌は書けない
レディオヘッドなんて神格化されてますからね。

他にもこの本以外の発言だが

「オアシスの”Don’t look back in anger”を日本人が涙ながらに熱唱してるのを見るとヒく」

「ニルヴァーナのカート・コバーンは結局のところ(他人からの自分の)見え方ばかり気にしていた人」

があり、ロック好きならこの発言がいかにありえないかわかるし怒り狂う人もいそうだ。
オアシスの上記の曲なんて雑誌でそんな事書いたらファンから袋叩きにされそうだし、僕もこの前のノエルのソロバンドのライブでこの曲をシンガロングしちゃったけど「確かになぁ」とか思っちゃうのだ。

特にニルヴァーナなんてカートが拳銃自殺したことからやたらと神格化されているけど、永野のこのコメントが1番しっくりくると思ってる。

一応補足しておくと永野はニルヴァーナは大好きだし、上記のレッチリのジョン・フルシアンテも憧れを感じていたくらい好きである。この本でもアーティストをやたらに腐してるだけではない。絶賛もしている。

実際、プロディジーやU2についてはベタ褒めだった。

しかしべた褒めなんぞ音楽雑誌で腐るほど書かれている。この本の価値はむしろ音楽雑誌では書けないような私的かつフラットな意見にある。

独断と偏見で斬りつつもどこか愛があり、音楽についても熱いながらもどこか冷めている、そういう視点が心地よい一冊で

音楽雑誌を愛読しつつ何か違和感を感じている人にオススメしたい一冊だ。

この本が気に入った方には「オルタナティブ」も勧めたい。音楽だけでなく自身の人生についても語った、よりディープな永野本となっている。
そこには自分をバカにしたり嫌がらせをしてきた芸人仲間やTVプロデューサーへのうらみつらみ
自身の情けなさについて、そして世の中全般に対する反骨心も描かれていて読み応えはある。

世の生きづらさを感じる方には本当に共感もできると思うのでオススメだ。

最後に、この本の最後を締めくくる名言を載せようと思う。

「頑張れというものが人を救うと思ってたんですけど、まったく逆で、退廃的だったり、浮世離れしてるものが人には絶対に必要なんですよね。  ロックは、そういう人を救ってきたと思います。  だからみんな。ロックに逃げよう。」

ちなみに僕は永野の面白さが世間に見つかることを切に願っている。

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