【第10回】中国のGDPは信頼できない 「中所得国の罠」に陥り経済発展は困難 

 中国の国家統計局が公表した今年4月から6月までの実質GDPの伸び率は、前年同期比で6.3%だった。今後の中国経済の動向はどうなるだろうか。

 中国のGDP統計が発表されるタイミングは異様に早い。あれほどの大国なのになぜそんなことができるのか。GDP統計は、消費、投資、輸出、輸入などの様々な統計データを集めてようやくできる。だから、GDP統計発表までの期間は最低でも1カ月は必要だが、中国の場合はすぐ出る。まるで誰かが数値を先に決めているかのようだ。

 ただし、輸入の統計データだけは信頼できるだろう。海外品を消費するとそれが輸入になる。消費というのは、所得が大きい人ほどたくさん消費する(恒常所得仮説)。人によって違うが、平均的には所得の7割くらいを消費して、残りを貯蓄に回す。所得が伸びれば、消費も伸び、同時に海外品の輸入と消費も伸びる。

 そのため、輸入の伸び率を見ていれば、ある程度全体の所得の伸び率がわかるのだ。それに中国の輸入統計は、世界各国の中国向け輸出を足し算するとだいたい同じになるので嘘をつきにくい。

 中国税関総署が13日に公表した6月の貿易統計を見ると、輸入は前年同月比-6.8%だった。そこから中国の実質GDP成長率が前年同期比6.3%もあるわけがないということがわかる。

 これからの中国経済は経済構造を変えない限り、発展するのは厳しくなる。これは、開発経済学の概念である「中所得国の罠」に関係してくる。

 中所得国の罠とは、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得国になれないことをいう。中所得国とは、1人当たり国内総生産(GDP)が3000~1万ドル程度の国を指すことが多い。

 これをG20諸国で見ると、1人当たりGDPがほぼ1万ドルを超えているのは、G7(日本、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア)とオーストラリア、韓国、サウジアラビアだけだ。1万ドルの壁にはね返されたのがアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6カ国で、まだそれに至らないインドとインドネシアだ。そして中国は1万ドルになったと思われる。

 中所得国の罠をクリアするためには、国有企業改革や対外取引自由化などの経済構造の転換が必要だが、一党独裁の共産主義国である中国にはそれができない。共産主義国家では、資本主義国家とは異なり、生産手段の国有が国家運営の大原則であるからだ。

 中国の6月の16~24歳の失業率は21.3%で、前月から0.5ポイント上昇した。ここに、民主化されていない中国経済の弱さが出てきている。

 中国が中所得国を脱却し、これから経済発展する可能性は少ないだろう。一時的に1万ドルを突破してもはね返され、長期的に1万ドル以上にならないのではないか。これまでの統計を見る限りでは、既に中国は中所得国の罠に陥り始めているのかもしれない。

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