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篠たまき『やみ窓』 感想

篠たまき『やみ窓』
2023.5.4読了

 《あらすじ》
もの寂しい団地の一室、宵闇の中で毎晩女は待つ。窓辺を訪れるモノたちと商いをするために。この窓の向こうは夜だけ異界とつながるらしい。彼らが持ってくる品と物々交換したものをネットで売れば存外の金になる。異界のモノたちとの商いはリスクを伴うものの寄る辺なき生活を潤し、静かに女の日常になってゆく。


《感想》
連作短編。ホラーとして特集された縁で本作を知ったが、むしろ枯淡ともの寂しさを感じる幻想文学であった。丁寧な手触りでしっとりとした語り口が妖しく美しい。

闇から訪れる民と取引を続ける主人公が怪異、神として語り継がれる存在になっていく過程がつぶさに描写されており、蠱惑的な読み味。伝説、伝承の生まれる過程を「神様」側から描くアイデアが素晴らしい。ペットボトルが神器のごとく尊ばれる交渉が暗い恐ろしさと美しさで魅力的。

物語の中で起こる出来事を極めて現実的で合理的な必然で説明できる幻想文学、というのは今までに読んだことのない読み味だ。ロジックで解明されてなお幻想文学である、という不思議な世界。

全体的に怖くはないのだが、グロ描写のある『やみ児』はゾッとした。ここはかなりホラー。全く望んでない供え物がすごく怖くて悲しい。受け答えを誤ったせいでとんでもない罪を負ってしまうことになり、ろくでもない怪異にされてしまうのが妖しく残酷。ザクッとしてドロドロした温かい手触りと、取り返しのつかない後悔がじんわり染みてくる感触。幻想と現実の重さが天秤の上で吊り合う、ぬめるようなカタルシス。


実写化するなら山田真歩さんでしてほしい。ネットオークションをドラマにするの面白いと思う。

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