ジュルジュルの奇妙な恋愛

 あれはとある月の16日その日は私の誕生日の前日だった。彼女に温泉旅館宿泊をプレゼントされたもんだから嬉しくて嬉しくて舞い上がっちまってトリプルアクセルをしそうなほど興奮していた。道中の車内はそれはそれは楽しくおしゃべりをしながら片道2時間程度車を走らせた。温泉が近づいてくるなり硫黄の匂いがプンプンしやがるもんでワクワクの火に油を注がれたように、気持ちは昂っていたわけだ。部屋につくなり早速温泉に向かった。混浴だっていうもんで温泉に浸かりながら待ってたわけだが待てど暮らせど彼女の姿が見えねぇ。のぼせちまうといけねぇから我慢ならず上がったらどうやら入れ違いだったようで、先に上がったの?とLINEが。あちゃぁこりゃやっちまったと思ったがまぁ貸切風呂があるしいいかと思い直し脱衣所を出た先のベンチに腰掛け、置いてあったレモン水を口に含んだ。すると彼女がやってきて同じくレモン水を口にした。お互いレモン水をひとしきり褒めた後、私は加えてレモンの果実がそのまま入っているせいかレモンの香りが強いくて美味いなぁとレモン水への想いの火加減を強めにしたあたりで彼女が何やら不穏な雰囲気を醸し出していた。どうしたと声をかけるなり先に部屋に帰って、なんていいやがる。まぁいいかと気にも留めず部屋に帰りテレビをつけ野球中継にチャンネルを合わせる。テレビに夢中になっていると重苦しい雰囲気を漂わせた彼女、入室。只事ではないと察知したがどう切り出したもんかと悩むこと二十分。とうとう痺れを切らし何があったかと尋ねた。すると彼女がぽつりと私はありがとうが欲しかったと一言。なんというかそんなタイミングあったか?誕生日の瞬間とかにいうだろ?とも思ったのだがここは私が悪いと謝罪をした。しかし彼女の顔は晴れない。仕舞いにゃあもう友達に戻ろっかなんていいやがる。ちょいと待てと思ったが彼女は一人で貸切風呂に向かっちまった。さて、三十分後に彼女が帰ってくるのだがそれまでが地獄であった。とてつもない居心地の悪さ、絶対に高いこの旅館でこれまでにない最悪な空気。部屋に取り残され一人きり。嗚呼終わったなぁ、なんて思ったが彼女の性格を考えればそう大きな問題ではないのではないかと考えた。思えば彼女は些か難解な性格の持ち主であった。彼女自身も制御しきれないほど感情の起伏があるそんな人だった。少し機嫌を損ねただけなのではないかという一抹の希望を胸に彼女を待つことにした。案の定、帰ってきた彼女の機嫌は先ほどに比べたら好転していた。が、ここはしっかり謝ろうと今一度謝罪をし、事なきを得たかに思われたがそうは問屋が卸さなかった。お泊まりが終わり翌週会う約束をしていたが彼女の用事でスキップ。その後しばらく会っていなかったため寂しさを覚えた私は大学から一緒に帰ることを提案、無事了承を得た。学校から一緒に帰るなんて高校からの悲願を達成できると胸を高鳴らせていると彼女登場。久しぶりであったため少し緊張感もあったが、私の指の怪我の話をきっかけにその緊張がほぐれたような気がした。遡ること数日前、私は包丁で指を深く切ってしまった。そして血がドバドバ出て全く止まらなかったという話をしたのだった。もしかしたら緊張がほぐれたのは私の方だけであって向こうからしたら恐怖だったかもしれないが。その後スーパーでの買い物を手伝い解散。何もかもが元通りである、とそう信じて疑わなかった。
 結末は唐突に、投手が下位の打者に出会い頭の一撃を喰らうように突然訪れた。その翌日再び下校の許可申請のLINEを送信。すると、もう前のように仲良くできない。と返信。鳩が豆鉄砲を食ったような表情を真似できたのは世界であの瞬間の私だけだっただろう。しかしこれに対して私は食い下がることはしなかった。ダサいとかそうゆう訳ではない。私を嫌いになった人を好きになる自信がなかった。それだけである。
 これにより私の初めての交際物語は幕を閉じたわけだがこのことをきっかけに一つ気がついたことがある。フラれた女ではヌけねぇー。それからヌくとき彼女が頭をよぎることはなかった。
               第一部 完

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