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熊雄(連載⑩)

 朝日動物園は旭山市が運営する動物園のため、熊雄は公務員採用試験を受けることにした。好きな遊びも忘れ、熊雄は公務員試験の準備に余念がなかった。
 熊雄が生まれ育ったその岬では、四季それぞれ北海道の壮大な絵巻を織りなし、いにしえの時代も、今も変わらない表情を醸し出している。
 花が咲き風が吹きトッカリ(アザラシ)が波間から顔を出し、波飛沫で虹がかかる。毎年、動植物は輪廻を繰り返す。
 
 旭山市の公務員採用試験は熊雄が卒業した年の八月だった。
 一心不乱に机にかじりつく熊雄を見つめる達雄とヨシは、複雑な心境であった。
 いまだに全身の毛は生えたまま、年を重ねても特殊能力は衰えていない。
 だからこそ動物の気持ちを知り、そして動物愛護を息子が中心となって行っていくことが、どれほど世の中の役に立つか計り知れない。ひょっとして、動物虐待、人間の欲望のままに、人間以外の動物をなおざりにするその警告として、熊雄はこの世に出てきたのか、とヨシは思うのであった。

 その年の九月に熊雄は見事、旭山市の試験に合格した。そして、臨時として朝日動物園に採用になった。
 朝早くから夜の遅くまで働いた。夜勤は週に二回ほどある。毎日くたくただった。一年我慢すれば正規に飼育員として採用となる。大きな体を重たそうに駆けずり廻る熊雄をみて、ほかの飼育員は、ヒグマが檻から抜け出したのかと驚いた。
 まさに熊雄はクマなのだ。見た目が!

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