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熊雄(連載⑨)

 熊雄がバスで一時間ほどかかる道立高校を卒業したのが、昭和四十六年の春、寒さが厳しい中でも春の気配が確実に訪れてくるころだった。
 卒業後のことは、達雄もヨシも自分たちの傍に熊雄を置き、三人で細々と生活していくことを望んではいたが、将来のことは、息子の気持ちに任せることにしていた。
 卒業前年の夏休みに入る前、熊雄は担任の先生から卒業後のことについて、どうするのか聞かれた。もちろん、その先生は、熊雄が動物と意思疎通ができて話せることは知らない。
「俺は先生、動物という生き物が好きだから動物園で働いてみたい」と言った。
「だったら、朝日動物園という施設がある。いろんな動物たちがいる施設だね。お前は学校の成績も悪くはないし一度受けてみるか」
「はい!」と熊雄は嬉しくて大きく返事をした。

 昭和四十二年(一九六七年)の七月に開園していた朝日動物園は当時日本最北の動物園として、オープンセレモニーには、スウェーデンの臨時大使やソ連大使館参事官、アメリカ札幌領事なども参列し盛大に行われた。
 この年北海道は開道百年を迎え、景気も上向き、大型景気時代の始まりで、道民の気持ちも明るい方向に向かいつつあった。
 昭和四十六年はその開園からまる四年が経ち、やっと落ち着いた年であった。
 当時の入園料は大人百円、子供は中学生五十円小学生十円だった。入園者の初年度は四十六万人弱、熊雄が飼育員として採用になった昭和四十六年度は四十万人弱であった。
 この年から小学生と六十歳以上は入園無料となっている。
 

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