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熊雄(連載⑫)

 その日から一週間後の朝、動物園が大騒ぎになった。それはヒグマの檻の鍵が古くなり、それを力ずくで壊して、雄グマが逃げ出したからだった。
 園長は直ちに、その日の営業を中止にした。また、市役所、警察、消防署など各方面に連絡をした。
 各マスコミはこぞってそのことを報道した。
 万が一、市民が巻き込まれ、予期せぬ事態になれば大変だ。動物園総出でその雄グマを探し回った。
 熊雄は、檻の中で寂しそうにしていた雌グマのところに行った。
「世間では大騒ぎになっているけど、何処に行ったか見当がつくか」
と聞いた。
「私は、大変なことになるよと言ったんですが、どうしても此処から出たい、と言ってカギを壊して出て行ってしまった。皆さまに迷惑をかけてしまいました。申し訳ありません」
「裏山に逃げ込んだかもしれないな」と熊雄が言う。雌グマも頷いた。
 雌グマは、クマの習性やら、夫グマの癖やらを詳細に熊雄に教えた。
 雌グマは事の重大さに、一人(一頭)、檻の中でしょんぼりしていた。
 捜索の途中、熊雄と芳男は園長室に呼ばれ、園長から最近の熊の状態を事細かに聞かれた。園長は頭を抱えながら、
「大変なことになった。何とか無事に見つかってくれたらいいが、人に危害でも加えたら、それこそ一大事だ。いまもテレビで全国放送している」とテレビのスイッチを付けた。
 画面では男性アナウンサーが、盛んに今の状況を伝えている。熊雄は青ざめた。
 園長室を出た二人は、また雄グマの捜索に取り掛かった。どこに行ってしまったのか、熊雄は声を出しながら探し回った。
 芳男と熊雄は、雄グマの行動を予想し、裏山の奥深い場所を探し回った。しかし、夜の九時頃まで捜索したが、その日は見つけ出すことが出来なかった。動物園の周りにはパトカーの赤色灯が一晩中点滅していた。

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