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【連載】しぶとく生きていますか?⑬

 淑子は今朝がた昆布拾いに出かけた茂三の帰りが遅いことに、どうしたのかと首を傾げた。
 一茂は、既に一里もある庶野の小学校に行ったあとだった。

 淑子は家の前の砂浜、ドンドン岩を探した。トンネル(隧道)に向かうと、海岸の波打ち際には、たくさんの漂流物が打ち上げられていた。風は強く、海岸に波が打ち寄せ、時に大波がきた。
 淑子は、見慣れた夫の頭に巻いていた手拭いを発見した。
 夫はどこに消えたのだろうか?
 一瞬不吉なことが、淑子の頭をよぎった。淑子は非常に不安になった。

 淑子は庶野に自転車で走った。そして、派出所の田所に話した。
「うちの父さんが居なくなってしまった!」すると、田所は、
「茂三さんが、消えてしまった?」
「本当だ、駐在さん。今朝がた昆布拾いに出かけたまま、帰ってこないべさ」
「何か手掛かりは?」
「それが、浜辺に、夫がいつも頭に巻いていた手拭いが落ちていた」
「奥さん、茂三さん、波にさらわれたべか? とにかく、一緒にその現場にいくべ」
 淑子は、田所を伴って、その現場に出かけた。砂浜には、大波が打ち寄せているだけだった。

・・・・・・
 茂三は、ともかくその小さな光に向かってあるいていた。

 いつの間にか、遥か先の光の大きさが増してきた。茂三は多少希望が湧いてきた。このまま歩き続けると、あの光に辿り着けそうに思った。

 そして、とうとう辿り着いた。茂三は直感した。ここは、北海道ではない。地球でもない。そうだとしたらここはどこだ? 奇妙な世界に来てしまったと茂三は思った。
 茂三の周りが徐々に明るさが増してきた。暗闇から抜け出たため、明るさに両眼が慣れず、戸惑ったが、徐々に慣れてきた。
 茂三の周りには、たくさんの綺麗な花々が咲き誇っていた。この世のものではない。夢か幻のようだ。その周りを眺めながら進んだ。すると、透き通る水の流れる川に辿り着いた。その川のほとりには、枯れ木が一本立っていた。その木のそばに、あばら骨がでた真っ白い頭髪の老婆が茂三を見つめていた。
「そこの旦那! わしのところへおいでな」と言った。そして、茂三が纏っていた衣類をはぎ取った。そして、次のように言った。
「旦那、万が一戻って来た時に渡す。それまでワシが預かっておくからな」
 その枯れ木の枝には、沢山の衣類が掛けられていた。既に風化した衣類も多かった。
 茂三は、素っ裸になった。すると、その老婆が、川に向かって指を指した。そこには、一艘の小舟が浮かんでおり、船頭が茂三に手を振っていた。

 茂三は、その小舟に乗りなということだと思った。


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