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【連載】私たちは敵ではない(3)

 ある金曜日の午後、携帯電話が鳴った。思いがけずお袋からだった。
 お袋は田舎で独り住いだ。親父はすでに他界している。暫く忙しさにかこつけて連絡もしていなかった。
 電話の向こうでお袋の声がする。聞き取りにくい。「・・・助けてくれ」と言っているような言葉であったが、そこで電話が切れた。以前、妹が緊急時用のため、お年寄り用の携帯電話機をお袋に持たせてくれていた。
 早速妹に電話した。
 お袋の只ならぬ様子を伝えて、実家に顔を出してもらうことにした。こういう時一緒に住んでいれば、お袋もどれだけ心強いかしれない。

 妹から連絡が入ったのが午後六時頃だった。 
 概略、次のような報告をくれた。

 私から連絡をもらい、急ぎ実家に向かったとのこと。車で五十分程の距離である。妹はお袋の身によからぬ事が起きていないか、不安にさいなまれながら、車を運転して実家に向かった。

 玄関には鍵が掛っていた。
 合鍵を使って玄関の扉を開け、部屋の中へ入った。
 用心のため十五歳になる長男を連れて来ていた。
 部屋の中をあらためたが誰も居なかった。
 お袋はどこにいるのか? 
 妹は何度もお袋の携帯電話を呼び出した。しかしお袋は電話に出なかった。警察に連絡したほうがいいのだろうか? それとももう少し近所を探し廻ろうか思案したらしい。
 それから一時間ほど経過した頃、ひょいとお袋が帰ってきた。
 妹と息子は驚くやら安心するやら、ともかくお袋が帰ってきたので一安心した。
 ところがお袋は帰ってくるなり、自分で布団を敷いて寝てしまった。娘と孫が来ているのに、全然相手にせず寝てしまった。まだ夕方の五時頃で寝る時間には早い。思わず妹と息子は、顔を見合わせてしまった。
 怪我をした様子も無く一安心はしたが何か様子が変なのだ。
 帰ってくるなり直ぐ寝てしまったので、今までの様子が聞けない。
 妹は無理にお袋を起し、今まで何があったのか聞いてみようとした。
 お袋は何かいつもと様子が違った。幾等聞いてもろくすっぽ返事もしないのである。この状況を私に知らせてきた。

 私はとりあえず、妹に 今晩は実家に泊まるようお願いした。妹は勿論そうすると応えてくれたが...…、その晩とんでもないことが惹起したのだった。
 

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