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【連載】しぶとく生きていますか?㉘

 翌朝起きてキツネ小屋をみた茂三と松江の二人は、思わず吹き出してしまった。
 二匹とも体を丸め口を開けて鼾をかいていたのである。
「俺の鼾より大きいな」と松江が笑った。
 二匹の子ギツネは、松江の笑う声で起きてしまった。そしてお腹が減ったと見えて、朝ご飯を強請った。
 松江はその二匹のことが可愛くてしょうがないのだ。顔を綻ばせ乍ら餌を与えた。
 そして子ギツネと戯れていた。茂三はその景色をほのぼのと眺めていた。

 ある日、いつものようにフンコツに通ってきた二人は、いの一番にキツネ小屋を覗いた。子ギツネを飼うようになってからすでに一カ月ほどが経っていた。新しい年が目前に迫っていた時期だった。襟裳は雪はあまり降らない。そのためか風が肌を刺す寒さなのだ。それでも茂三と松江のコンビは自転車で見晴台の仮設住宅からフンコツまで通っていた。

 二匹の子ギツネは、ふたりの近づいてくる気配を察してか、キュンキュンと鳴く。
 二人は子ギツネの鳴き声を聞き安心するのだった。子ギツネは成長するにつれ食欲も旺盛になった。

 翌年の早春、ついに二匹のキツネを山に返す時がきた。別れは辛い。野生動物とはいえ、母ギツネを亡くし、茂三と松江に育てられた恩は決して忘れないだろうと茂三は考えた。

 キツネ小屋の柵を開けた。
 二匹はその柵から出てきた。松江は二匹に最後の餌を与えた。そして、「山に帰るんだよ」と優しく言うのであった。
 二匹のキタキツネは、時々後ろを振り向きながらフンコツの山の奥へ消えていった。
「寂しくなるね」と松江が茂三に言った。茂三は無言で頷いた。
 

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