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ゴメが啼くとき(連載14)

 佐藤家にたどり着き、進駐軍の兵隊さんのことを叔父と嫁のシゲに話をした。皆で大笑いをした。
 佐藤家の子供たち三人も家にいたが、文江の成長した姿に目を見張り、昔虐めた気まずさもあり、三人とも静かに時の過ぎるのを待っているような素振りだった。

 文江の偉いところは、過去に虐められた事を、とやかく根に持つことは、しない事だった。
 すでに過去のことである。
 
 文江は読み書きがほとんどできなかったが、知恵のある子供だった。
 他人の家で過ごし、物事の分別を自然に身につけていたのだった。ただ、どのような理由があるにせよ、勉強をしなければ、あのジープ事件にならずに済んだものを、と文江は思うのだった。
 今からでも遅くはない! 必ず、孝女白菊の絵本を読めるようになると、強く決意するのであった。

 その日は夕方までフンコツの佐藤家で皆と懇談した。
 佐藤の叔父の運転するオンボロ軽トラックに乗せてもらい、歌別の実家に戻った。

 文江の苗字は、佐藤から上嶋に代わっていた。
 母のハナが上嶋の姓の義父と一緒になったためであった。その後、新たに三人の姉弟きょうだいが増えた。
 文江の下の弟妹ていまい四人と、新たな三人の妹弟をあわせて七人である。
 文江は、上嶋家の長女として、七人の弟妹の面倒を見たのだった。

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