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わたしの良い子/寺地はるな

 妹の子どもを育てることになった椿
その子は周りについていけない、普通ができない。
読んでいる中で発達障害や子供も大人も抱える生きづらさみたいなものを感じた。
当事者でないとわからない視点、当事者ですら気づいていない視点
そのような景色を垣間見たような気がした。

周りに付いていけない甥の朔。
椿は彼の為に周りに合わせられるように、努めるがうまくいかない。
朔に対して不安と苛立ちを覚える椿、でも最期には朔の気持ちに寄り添って、周りに合わせることより、朔が幸せであるかを優先するようになる。

 こうやって言葉にするのは簡単だ。
でも、そこにたどり着くまでの椿と朔とのやりとり、椿の心情はリアルに響いてきた。
朔の遅い成長へのいら立ちは、保護者であれば感じる者であるだろうし、特に発達障害などの子を持つ親であれば一度は経験する「不安」や「恐怖」かもしれない。
それを実の親ではない椿が担うのは、大変なことだろう。
でも、椿その問題と向き合おうとする。
その力の源は彼に対する愛情であり、椿の言葉や行動から、その強さがありありと感じられた。

 朔との暮らしのなかで、彼女は朔が人と合わせること、みんなと同じことではなく、彼が彼らしく、幸せになれるように育てようと決める。
それは単に甘やかすことではない。
朔のペースで彼が将来困らないように彼女は朔を育てていく。
時には苛立ったり、不安に駆られたり、自分は朔の親ではないことに悩んだり、様々なことが彼女を苦しめる。

この小説に出てくる登場人物、すべてを私は愛おしいと思ってしまった。
何故なら、彼女たちも彼らも、みんなどこかしらに「人と違うところ」つまり欠点のようなものを抱えている。
それでも、みんな必死で自分の大切なものを守ろうとしている。

椿は意図せず、相手を傷つけたり怒らせたりするようなことを言う。
彼女に悪気はない。
その姿に痛々しく思う。
だって、私自身がきっと無意識に同じことをしている経験があったし、その反対もあったから。

人の欠点、うまくいかない所を浮き彫りにしている。
でも、それでも生きている。
まっすぐに、誇り高く。
そんなことを教えてくれる一冊でもあった。

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