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2月22日

ニャーニャーニャーの日。
今日は猫の日なのだそうだ。
けれど、この日になると、わたしは毎年複雑な気分になる。
平成13年2月22日。
わたしが犯罪被害にあった日だ。

当時、千葉のアパートで一人暮らしをしていた。
東京駅新幹線ホームのキヨスク店員として働き、夜学に通っていた。
仕事の早番から帰ってきて、疲れて部屋で眠っていた。
確か、夜学はサボっていたんだと思う。

枕元の人の気配で目が覚めた。
目は開けなかった。
人の気配は確かにそこにあった。
わたし、死ぬんだ。
殺されるんだ。
そう思った。
相手の手が、胸にのびてきた。
寝たふりをしながら、身体を動かしそれをかわした。
そのことで、わたしが起きている、ということがバレた。

「大きい声出すなよ。
俺、刃物持ってんだ」
と相手は言った。
わたしは目を開いた。
それから数十分、無抵抗で暴行を受けた。

「警察に言うなよ。
言ったら、また来る」
と言って、相手は帰っていった。
しばらく放心して、友達に電話をかけ、警察を呼ぶことをすすめられ、そうした。

現場検証が始まった。
警察官たちは、とても優しかった。
「ちょっと来てください」
ドアのところに呼ばれた。
魚眼レンズのところに、丸い穴があいていた。
「これ、気づいてましたか?」
と聞かれ、全然知らなかった、と答えた。
警察官は言った。
「この部屋は、ここから丸見えだったんですよ」
そして、こう言った。
「残念なことですが、こういった事件は、日本全国津々浦々で、毎日のように起こっている事件です」

数日後、被害届の作成に、警察署に呼ばれた。
そんなにたいしたことではなかったな、これくらいのことは忘れるだろう、という気持ちがほんとうだったのか、恐ろしかった、もう思い出したくない、という気持ちがほんとうだったのかはわからない。
とにかく現実味がなかった。

あれから23年経ったんだ、と思う。
事件の時効は10年。
とっくに時効は過ぎ、犯人はわからずじまいだ。
彼は今、どんな人生を送っているのだろう。
彼が憎い、と思っているのか、どうだっていい、と思っているのかも、今はわからない。
ただ、毎年2月22日になると、ほんの少し複雑な気持ちになる。

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