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レースの勝者はカメだ

障害者の作業所に通っている。
そこだって立派な職場だ。
日々技術の上達を目指し、コツコツ働いている。
真珠のネックレス作りがメインの仕事だけれど、それは誰にでもやらせてもらえる仕事ではない。
こいつならできるんじゃ?
そう思ってもらえたメンバーのみに教えてもらえる、ビッグな仕事だ。
そういったわけで、わたしも真珠のネックレス作りにチャレンジさせてもらったのは、通所を始めて半年以上過ぎた頃だった。
その技術を、オールノットという。
本格的な技術で、デパートなどで真珠のネックレスの糸替えを頼むと四千円とか五千円とかする、と聞いている。
プロの技術だ。
梅雨のジメジメした日々、目をキラキラさせて毎日技術の習得に打ち込み、ついにオールノットの合格をもらえた頃にはもう7月が迫っていた。
1ヶ月弱で合格ラインに達したのは、ただもうわたしの努力ゆえのことだったと思う。
それ以降、わたしはオールノットのネックレス作りを度々頼まれるようになった。
そこで目障りになってくるのが、ライバルの存在だ。
「Nくんにはかなわない。
作業も早いし仕上がりもきれいだ。
Nくんは、オールノットを教わったとき、最初から完璧なものを作った天才だ。」
「Nくんさえいなければ。」
そんなことを考えていた。
そう、わたしは嫉妬深いのだ。
ただ、Nくんにも弱点がある。
そもそも作業所を休みがちで、ほとんど来ないのだ。
けれどわたしはそこにさえ嫉妬した。
「サボり魔が天才だと?」
そう思った。
けれど職員さんは言ってくれた。
「あなたは努力の人だ。
いろんなことを努力で成し遂げてきたのを見てきた。」
その言葉に感激し、再びわたしは燃え上がった。
Nくんは天才。
わたしは努力の人。
Nくんはウサギ。
わたしはカメ。
レースの勝者はカメだ。
いつかNくんを越えてみせる。





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