誰も俺と遊んでくれない
障害者の作業所に通所している。
行き帰りはいつも送迎車だ。
最近よく、社長の運転する送迎車で作業所に向かう。
社長はもともと、真珠の買いつけを30年やってきた人だ。
真珠の買いつけに、タヒチで2年暮らしていたこともあるという。
社長は宝石の会社を2つやっている。
そんなわけでわたしたちの通う作業所も、メインの仕事は真珠のアクセサリー作りだ。
社長はプロだ。
だから、わたしたちの技術への評価も、とっても厳しい。
プロの目で見て、自信を持って商品として出せる、そんな仕事にしかOKを出さない。
けれど社長は、とっても楽しい人だ。
職員さんは言う。
「社長の言うことは、8割冗談、1割ウソ」
でも、場を盛り上げてくれるのは、往々にしてそういう人だ。
ある日、送迎車の中で社長ははしゃぐ。
「TさんとSさんは施設長ファミリーだよね、Oさんととりこさんは俺ファミリーだよね」
「そうだ!派閥を作ろう!」
社長、なに言ってんですか。
また別のある日、時間に余裕があったのか、作業所の片隅のソファーに腰かけて、部屋を見渡し社長は不満げにつぶやく。
「誰も俺と遊んでくれない。
みんな仕事ばっかりして」
社長、なに言ってんですか。
そんな社長に、いつも元気をもらっている。
来年わたしは50歳になる。
社長はわたしに、来年は飛躍の年にしろ、と言った。
ほんとうにそうできるんだろうか。
なんだか不安だ。
ネガティブなわたしは、ふとしたことで弱気になる。
社長は、過去にとらわれず目の前のことをしっかりやれ、と言った。
そうしよう、と思う。
明日もまた、送迎車の運転は社長だろうか。
そう思うと、憂鬱な月曜日も、ちょっぴり楽しみだ。
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