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法人税シリーズ〜社員旅行は給与課税?①〜

 今回は、判断基準が非常に曖昧で実務判断に困る福利厚生費と給与課税の区分けの論点の中の「社員旅行」部分の裁判例を取り上げていきたいと思います。
 
 その前にまず、福利厚生費と給与課税の関係について簡単に確認してみます。

給与とは? 

 まず給与所得の意義としては、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的ないし従属的な勤労の対価としての給付に係る所得」をいうのですが、今回この点を充足しているという前提で話を進めていきます。
 次に、給与というと毎月口座へ振り込まれている金銭が真っ先に思い浮かびますが、税法においては金銭だけでなく金銭以外の物を受領した場合や”経済的な利益の供与”を受けた場合にも給与と判断されます。
 この”経済的利益”とは、会社から従業員が食事の提供を受けること、無利息で金銭を借り受けること、無償で社宅を使用させてもらうこと等、本来従業員自身が負担すべき費用を会社が負担してくれたというようなものをいいます。

福利厚生費は給与課税されない

 これに従って考えると、社員旅行という従業員の遊び(?)の費用を会社が全額負担した場合には、従業員が負担すべき遊び費用を会社が負担してくれたのだから、原則従業員に給与課税されることとなります。

 しかし、この点所得税法基本通達36−30では以下の要件を掲げて使用者が負担するレクリエーションの費用は課税しないことを明示しています。


社会通念上一般的に行われていると認められる会食,旅行,演芸会,運動会等
 のレクリエーションのための費用であること
・その行事に参加しなかった使用人等に対しその参加に代えて金銭を支給しないこ
 と
・役員だけを対象としていないこと



 使用者が負担するレクリエーション費用は課税されないといっても、社会通念上一般的に行われていると認められるものという枠内になりますので、ざっくりまとめると結局【使用者において福利厚生費とされるもの=給与課税されない】と整理することができます。


 それでは、以下何をもって「社会通念上一般的に行われているものか」が争われた裁決事例をご紹介します。

審判所平成10年6月30日 裁決


1.事案の概要
 建設土木業を営む従業員30名程の同族会社が従業員及びその家族を対象に以下のとおり行った社員旅行費用について、国税当局が給与として課税したことに対して争われた事例。
年  行き先   参加人数   旅程   一人当たり費用   
H5  九州    51(32)   3泊4日    19.2万円
H6  ハワイ    55(26)   5泊6日   44.9万円
H7  沖縄     68(29)   3泊4日   26.0万円
※参加人数のかっこ内は従業員の参加人数
※不参加者への金銭支給はしていない
※旅行費用はオプション部分の半額を従業員負担にした以外全て会社負担

2.審判所の判断
 ①一人当たり費用がいずれの年も多額であり、その従業員家族分まで会社がほと
  んど負担しているため、社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内
  の福利厚生行事と同程度のものとは認められない 
 (以下の②③は福利厚生費と給与課税の一般的な考え方を述べている部分)
 ②福利厚生費として支出されたものでも従業員がこれによって経済的な利益を享
  受する場合には給与に該当するが、以下の理由から社会通念上一般に行われて
  いるものの範囲内なら課税しないことが相当。
  ・従業員等は雇用されている関係上、必ずしも希望しない福利厚生行事に参
   加せざるを得ない面があり、その経済的利益を自由に処分できるわけでもな
   いこと
  ・福利厚生イベントに参加することで受ける経済的利益の価額は少額であるの
   が通常で、その評価が困難な場合も少なくないこと
  ・使用人等の慰安を図るため使用者が費用を負担して福利厚生行事を行うこと
   は一般化していること
 
 ③社員旅行はその経済的利益の享受に対する選択性がなく、その利益について自
  由に管理・支配できないものであっても、その従業者に帰属することが明らか
  な利益であれば給与といえる


 この裁決は②③で言及されているように、福利厚生費と給与の関係の考え方がよくわかっていいのですが、①のとおり事実関係に対する判断の理由がほぼ無しに等しいので、実務における具体的な基準としては使いずらいかと思います。
 まあ、このような「社会通念上相当」か否かという判断については、交際費等の裁判例の理由などをみていても、裁判官の感覚(心証)次第な事柄なためこうなってしまうのは仕方ないといえば仕方ないですが・・・

 ただ、今回の裁決の結論については、感覚的にも妥当だと多くの方が思うのではないでしょうか。ハワイ5泊6日で一人当たり44万円といったら私が行った新婚旅行と大して変わりません笑


 個人的には、今回の裁決で審判所が②で示した相当額の福利厚生費が給与課税されない理由の中で「従業員等は雇用されている関係上、必ずしも希望しない福利厚生行事に参加せざるを得ない面があり・・・」という箇所がサラリーマンの実態と感覚にかなりフィットしたものでお気に入りな部分でした笑

 ちなみに余談ですが、公務員には福利厚生費というものは存在しないため、職場の忘年会や年度初め、年度末といった節目節目の民間企業なら絶対福利厚生費として会社が全額負担しても良いような飲み会代も全て自己負担です笑


 次回も同様に会社負担の社員旅行費用の福利厚生費該当性について争われた裁決事例を載せたいと思いますので、ご覧いただければと思いっます。


 最後までご覧いただきありがとうございました^ ^

 

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