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法人税シリーズ〜修繕費と資本的支出①

 賃貸マンションの外壁塗装や屋根の補修工事、車のタイヤ交換、自社ホームページの更新等、既存の資産に対する新たな支出をした場合にその支出が「修繕費」に当たるか「資本的支出(=資産計上)」に当たるかという点は、経理に携わっている方が日々直面する悩ましい事柄の一つかと思います。

 そして、この点については、相談を受ける税理士としても悩ましいことには変わりありません笑

 今回は、この論点についての裁決事例をご紹介したいと思いますが、まず大前提として修繕費と資本的支出がどのように区分けされているのかざ〜っくり整理して起きます。

修繕費とは

固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額
➡︎マイナス(破損、損耗等)をゼロ(破損や損耗等の前の状態)に戻すこと

資本的支出とは


資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする部分の支出
➡︎マイナス(破損、損耗等)ないしはゼロの状態からプラス(アルミ製の機械をチタン製に変える等)の状態にすること

 本当に非常にざっくりですが、これを頭の片隅に入れつつ、以下の裁決事例をご覧いただければと思います。

審判所平成13年9月20日裁決


 1.事案の概要
  卸売業を営む法人が所有する以下の3棟に係る屋根雨漏り防水工事費用(金額
 非公開)について修繕費として経理したところ、国税当局から資本的支出である
 として更正処分を受けた事例。
  建物   経過年数/耐用年数    構造       修繕工事方法
①本社倉庫   22年/35年   鉄骨造スレート葺   屋根カバー工法
①本社倉庫   18年/35年   鉄骨造カラートタン葺 屋根カバー工法
②流通センター 12年/35年   鉄骨造陸屋根     折板屋根工事
③ビル     17年/35年   鉄骨造陸屋根     折板屋根工事

 2.裁判所の判断
①本社倉庫
 屋根の20箇所以上の亀裂から雨漏りが発生したもので、その亀裂に対して個別に修理ができたにもかかわらず、その屋根の上にカラートタンで屋根全体を覆い被せた屋根カバー工法により工事を行ったものであり、耐用年数の到来が近い屋根を新たにカラートタンで覆う工事は、屋根の耐用年数を延長する工事と認められ、単に雨漏りする箇所のみを修繕する応急的な修復工事、すなわち、単にその資産の通常の効用を維持させるための補修とは認められないため、通常の管理又は修理の範囲を超える支出であるため資本的支出に該当する。

②流通センター及び③ビル
 一般的に陸屋根式建物は、雨漏りがいったん発生すると雨漏りの経路が分かりにくく完全に修理することは困難だといわれており、流通センター及びビルに係る工事は応急的に行なわれたものであり、この工法が雨漏りを防ぐ一番安価な方法(工事施工者の証言)であったことが認められ、さらに、過去何度となく補修工事を行っていたにもかかわらず雨漏りが続いていたこと等を考慮すると、本件工事を行わない場合には漏水による建物各部分への影響が不可避であり、結果的に当初予測した建物使用可能期間を短縮させることになるとともに、本件工事によって新たに生じた屋根裏の空間には利用価値が認められないことから、請求人が施工した陸屋根全体を覆う防水工事は、建物の維持管理のための措置であったと認められるため修繕費に該当する。


 同じ雨漏り防水工事について資本的支出と認められるものと修繕費とされるものの2種類が判断されているため、理解しやすい事例ですね。
 
 今回結論に差が出た要因は屋根の構造によって雨漏りの箇所の特定が可能か否かという点工事内容が大きいようです。
 (ちなみにスレート葺やカラートタン葺の屋根というのは一般的によく見る傾斜があり、屋根用の素材が敷き詰められているような屋根のことをいい、「陸屋根」というのは屋上スペースとしても使えるように平坦で屋根用の素材で覆われていないような屋根を言います。)

 工事内容としては、①は「屋根カバー工法」、②③については「折板屋根工事」と、名称が異なりますが、工事の内容としては両方とも既存の屋根の上に更に屋根を被せる工事です。この事例は具体的な金額が伏せられているため、その工事の度合いの差を金額で比較することができない点が残念ですが、後者の「折板屋根工事」についてはその施工業が「応急処置的に行う工事で安価なもの」と証言していることからも、工事の度合いには差があったのでしょう。

 そして、陸屋根である②③は具体的な雨漏り箇所の特定が困難であったため、全体を覆うことが必要最低限の修繕になると考えられた一方、①については雨漏り箇所を把握できているにも関わらず全体を覆う工事をしたことは修繕の必要性を超えていて、先の工事内容と相まって結果的に使用可能期間を延長させているものと考えられたようです。

 修繕費を想定して支出した場合には、「本当に必要最低限な現状維持になるような支出だろうか」という点を意識する必要があるということが、この事例から少しご理解いただければ幸いです。
 
 次回は、所得税法の事例となりますが、今回同様建物に対する防水工事の他外壁塗装工事について争われた裁決事例をご紹介したいと思います。


 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^
 

 

 

  

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