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所得税シリーズ〜不動産所得で青色申告特別控除65万円を使おう!

 不動産所得は不動産の貸付収入に係る所得区分で、不動産賃貸を専業として行なっている方から、副業として分譲マンションの一室を賃貸されているような方までその態様は幅広いですが、どのような規模であってもこの不動産所得として確定申告をすることになります。

 そして、この不動産所得の確定申告にあたり、青色申告の承認を受けていると「青色申告特別控除」として、10万円から最大65万円の控除を受けることができます。

 この控除額の差額55万円を税額軽減額で考えると、27,500円〜247,500円と、その人の所得金額によって幅があるものの、決してスルーするわけにはいかない控除項目です。

事業的規模なら最大65万、そうでなければ10万


 事業的規模か否かは、原則として「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうか」によって判断することとなりますが、あまりに抽象的でよくわかりませんよね笑 これは個別具体的な事実を積み重ねて判断するものなので、税理士でも税務当局の人間でも「この収入、契約形態ならこれ」というように明確に区分することはできません。

 そこで、国税庁は通達でこの事業的規模を便宜上次の基準で判断して良いとしています


所基通26-9
建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。


 いわゆる「5棟10室基準」です。
 ちなみに、駐車場ならどうなるのかというと、これは実務上駐車スペース5台分を1室として取り扱われているようです。

5棟10室基準は意外にハードルが高い!?

 「なるほど、ではこの基準に照らして青色申告特別控除がいくらになるか判断しよう!」と当てはめをしてみると、不動産賃貸の専業でやっている方でない限り意外と事業的規模には当てはまらないことが分かります(私が先週までに確定申告書の作成に携わった不動産所得者の約8割が該当していませんでした)。
 
 そうなると、「じゃあ仕方ないから10万円の控除にしよう。・・・そうすると若干所得税額が出るな。・・・まあしょうがないか。」と考える傾向が税理士事務所の担当者の中でも強いようなのですが、実はそうではないのです。

事業該当性はあくまで実質判断

 先ほどの通達の冒頭にも記載されていたとおり、あくまで事業該当性は難しいものの”実質”で判断をすることが大原則です。この通達でいう5棟10室基準というのはその難解な実質判断をしなくても5棟10室基準で当てはまるなら、これで判断しても良いという話なので、「5棟10室基準を使わないで実質判断をすることは」当然認められています。

裁判例からみた事業該当性

 じゃあどのようにその難解な実質判断をするのか?というと、基本的には過去の裁判において争われた事案の中身から使えそうな要素を抜き出して判断することになります。例えば以下のような裁判例があります。


東京地裁H7.6.30
事業に当たるか否かは,営利性,有償性の有無,継続性,反復性の有無,自己の危険と計算における企業遂行性の有無,その取引に費やした精神的,肉体的労力の程度,人的,物的設備の有無,その取引の目的,その者の職歴,社会的地位,生活状況などの諸点を総合して,社会通念上事業と言い得るかによって判断されるべきである。
(中略)
(貸付対象の5階建ビルは)住居兼用ビルであり,貸室として利用されているのは2フロア分の2室にとどまる上に,賃貸のための従業員は用いられておらず,管理人室等の管理施設も存在しないなどの事情があるとしても,同貸室からの賃料収入が,同ビル建築のために銀行から借り入れた金員を返済するための唯一の原資であること,同ビルは,当初からその一部を継続的に賃貸することを目的として建築され,現にその貸付けが継続されていること,被相続人は貸付けのための管理業務に一定程度の精神的肉体的労力を費やしていたものとみられること等の諸点を総合すれば,同建物の貸付けは社会通念上事業といい得るものであり,同項所定の事業に該当するというべきである


 この事案は、相続税における貸付事業用宅地等に当たるか否かということを争っている事案なのですが、ここでいう事業は所得税法でいう事業と同義であると裁判所が判断していることから、所得税の事業該当性の裁判例として使うことができます。

 そして、本事例は、「ビルを1棟を所有し、かつその賃貸部分は2室のみ」というパターンで、5棟にも10室にも到底及びません。

 しかし、裁判所は自己の危険と計算性(この賃料収入が唯一のこの建物の返済原資ということ)や、賃貸の継続性、管理業務における精神的肉体的負担から事業といえると判断しています。

税理士へ相談しましょう!

 このように、不動産賃貸業界で一人歩きしている「5棟10室基準」は絶対的なものではないため、ご自身の申告を見て「これは事業と言えるかな?」と思った方は税理士へご相談をお勧めします。

 ただし、裁判例はそれぞれの個別具体的な事情をもとにした判断なので、それを根拠に必ず事業該当性を認定できるようなものでもないため、そのリスクも把握した上で最終的に”責め”で行くのか”守り”でいくのかを判断していただくこととなります。

 私の場合なら、事実を伺ったうえで先ほどのような裁判例で掲げられた要件に当てはまる点と当てはまらない点を列挙したうえで説明をしていきます。税理士によってもこのあたりの対応の仕方は大きく異なりますので、相性に良い税理士選びをされることをお勧めします。


 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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