宝石店の店主から学んだこと
僕にはお気に入りの指輪がある。
オパールとその両脇に小さなダイヤの付いた18金の指輪だ。
2019年にフリマサイトにて一目惚れをし購入した。レディース物として売られていた指輪で
僕はそれをたまに右手の薬指に着けていた。
ちなみに僕は現在32歳。右利きのペンキ屋だ。
2023年12月、年末のとても忙しい仕事の最中、右手の薬指を思いきり突き指した。
本当に思いっきり壁に指を突いたのだ。
その指は日に日に大きく腫れ上がり生活に大きな支障をきたした。
僕はシャンプーもろくに出来ないその指に骨折という最悪の事態を思い浮かべた。
病院嫌いの僕は数日後、心配する社員の後押しを経て渋々整形外科に向かいレントゲンを撮ってもらったのだが、幸い骨に異常は無かった。
生まれて32年、僕は今まで骨折をした事がない。
骨折の危険のあることは色々としてきたが
小学生の頃に一度だけ右足の甲にグレーチング
(側溝などの上にかぶせてある金属の蓋のこと)
を落とされたその時にヒビが入っただけである。
骨がとても頑丈なのだ。親に感謝である。
ちなみに手は万年シンナーで荒れているが
たまに手が綺麗だと言われる事がある。
レントゲンに写る僕の右手は我ながら凄く綺麗な骨をしていた。父親譲りの手だ。
そんなこんなで右手薬指にお気に入りの指輪がはまらなくなってしまったのだ。
そのうち腫れも引くだろうと思っていたのだが
1ヶ月経っても2ヶ月経っても右手薬指には指輪が入らなかった。
だが僕は元々ピンキーリング(小指の指輪)が
欲しいと思っていたので、この指輪をサイズ変更すればいいのではと思い浮かんだ。
思い浮かべば即実行の僕は、指輪のサイズ変更を承っているお店をググって昔1度だけお世話になったことのある地元のジュエリー工房へ向かった。
ここは昔、当時の彼女に手作りの指輪を作るためにお世話になったお店でもある。青かった過去の話だ。
当時僕は18歳だったので14年ほど前である。
店主はおそらく僕を覚えていなかったし、僕も店主の顔をあまり覚えていなかったが本題の指輪を渡した。
すると店主がルーペで指輪を見るやいなや険しい顔をしてこう言った。
「オパールが割れる可能性があるからうちでは出来ない」と。
僕はこの時すんなりと引き下がったのだが、このままこの指輪を付けられなくなるのは嫌だなと思い、また後日違うお店を訪れた。
そのお店は小さいながらも歴史のある宝石店で
やはりそこでもオパールが割れる可能性があると言われたのだが、そこの店主は一味違かった。
「詳しく見るのでお掛けください」と
奥のソファーに案内され、お互いに向き合いながらソファーに腰をかけた。
僕は恰幅の良い60代くらいの店主のスーツにビッチリ浮かび上がる18禁の大きな金の玉に気を取られながらも店主の話を聞いた。
「最悪割れる可能性はあるけれど、この石は見たところ丈夫そうだしこの指輪もよく出来ているね。やれることはやるけど、どうしますか?」と。
石が割れてしまうのは勿論嫌だが
リスク無くして得られるものはないと思い
僕はこのお店に指輪を託すことにした。
「少し難しいリフォームになるかもしれないから普段より少し高くなってしまうかも知れないけどそれでもいいかい?」と店主。
それでも見積もりが5,000円程だ。
僕は迷わずお願いしますと伝え2.3週間後に来る連絡を待つことになった。
それから1週間程経ったある日
一本の電話が鳴った。あの宝石店からだ。
「お預かりしていた指輪のサイズ変更が終わりましたのでいつでもご都合の良い時にご来店ください」と明るいご婦人の声。
それから仕事の合間を縫って数日後に再び伺った。
明るいご婦人にソファーへ案内され腰をかけると店主がやってきて店主も向かいのソファーに腰をかけた。
そこへ出されたのは僕の右手小指ピッタリにリフォームされピカピカに磨かれたあの指輪だ。
無論今回もビッチリ浮かび上がる店主の大きな(以下省略)
冗談はさておき、
喜ぶ僕に店主はサラッとこう言った。
「思ったより簡単に出来たので3,000円頂きます。」
その言葉に僕は感動したのだ。
1回他店に断られてる上に見積もりより安く、そして早く、そして期待以上の仕上がりで指輪を提供してくれたことに。
宝石店店主のプロとしての意地とプライドと余裕さえも感じたのだ。
僕は塗装屋を経営している。
お客様に感動を与える事がこの仕事の目的ではないのかと、再びこの宝石店の店主から学んだのだ。
お陰様で現在たくさんの仕事をいただき忙しい日々を送っているが、一つ一つの仕事をもっと大切にやっていこうと思えた出来事だった。
また学ばせていただきました。
本当にありがとうございます。
ちなみに今現在もまだ右手薬指は痛いままだ。
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