見出し画像

母から聞いた怖い話 弐

前回のはこちら↓

前回の最後の話で、両親が古い家が好きだということを書いたのだが、今もそこそこ年季の入った家に住んでいるらしい。(今の家に越してから私はまだ遊びに行っていないので、実物は見ていない)
ただ、今住んでいるその家付近で不思議なことが頻発しているようなので、今回はその両親の引越し先での出来事をまとめてみたいと思う。

私の母は、子供の頃から「水無ちゃんのお母さんはおもしろい人だね」と定評があり、おかしなメールを送ってくることもしばしばあったのだが、
さすがに、

ねいちゃん!元気ですか?
私は今日、ひとつ目小僧を見ました!

母のメールより

という内容だけのメールが届いた日は「なんて???」と声を上げてしまった。
(私には弟がいるので、姉ちゃん→ねいちゃんと呼ばれている。発音的には“ねえちゃん”なんだが母的に文字にすると“ねいちゃん”になるらしい)

というわけで、今回はさっそくその「ひとつ目小僧」の話から始めよう。


ひとつ目小僧

ある日の夕飯後、母が洗い物を終わらせてふと窓の外を見ると、暗い夜道を何か光るものが通っていくのが見えた。
田舎の住宅の脇で、入り組んだ細い道とはいえ、車1台通ることはよくあることだったのでそこまでは何の不思議もない。

ただおかしなことといえば、光が“1つ”しかないのだ。

普通、車のライトならば左右に1つずつ、合計2つあるものだ。では自転車だろうか? それにしてはシルエットが小さい。
よく見ると、それは着物を着た子供のようだった。
母は、思わず「えっ」と声を上げた。
それがいけなかったのかもしれない。
母の声が聞こえたのか、その子供はクルッと振り返り、母の方をジッと見つめた。その顔には、目が、たった1つしかなかったらしい。
足を止めたひとつ目小僧(仮)と、完全に目が合ったままの母は、そんな状況で目を逸らすわけにもいかず、しばし見つめ合っていたが、やがてソレは興味をなくしたように、元の道を進んで去って行ったそうだ。
両親が住んでいるのは南関東なのだが、父曰く、そのあたりは昔からひとつ目小僧がよく出ると言われている土地なのだそうだ。



あなたのための忘れ物

私の両親が今住んでいるのは、似たような平屋が数軒並んでいるところで、そのうちの1軒を借りている。
大きな通りから入って、手前から2番目の家だ。

両親がそこに住むことを決めた時、一番手前の家も空き家だったようなのだが、そちらの方はどうも薄暗く、玄関では黒いモヤモヤとした人影のようなものが、誰かが入ってくるのを待っているかのようにこちらを伺っていたらしい。
母も父も、たまに人でないものが見えたり感じたりするだけで、その道の専門家でもないわけだが、その黒い人影が“嫌なものだ”というのは直感的に感じたらしい。絶対にそっちを見たらダメだ、と母は恐怖していたそうだ。

一方、最終的に住むことを決めたその隣の家は、変なものが見えることもなく至って普通の家だった。
ただひとつ変わったところを挙げるならば、家の中にひもで束ねられた本が2、3塊、置いてあったことだけだ。
前の住人は両親と同世代の独身男性だったようで、その人は病気で入院したまま還らぬ人となってしまったようなのだが、本が好きだったその人の持ち物が、少しだけ残されていたらしいのだ。

そして、なんとその蔵書は母の(ということはおそらく父もだ)趣味と合っていたらしく、私のために置いてってくれたのよ! と母は喜んでそこに住むことを決めたのだそうだ。



隣の家のウラサワくん

両親が新しい家に越してきてしばらく経った頃、黒い人影がうようよしていた隣の家に、新しい住人が入った。
名前はウラサワくん(仮名)。
「くん」と言っても、40代の男性で、非常に人懐こく周りからも好かれやすい人なのだそうだ。
——母曰く、“誰にでも”好かれやすい人だそうだ。

近所のおばさま方に構われている姿をよく見かけるらしいが、母はどうしても彼のことが苦手で仕方ないという。というのも、ウラサワくんには、常に何かが“ついている”らしいのだ。

母の受け売りなので元々どこの考え方なのかは失念してしまったが、人の首の後ろ辺りには気の通る穴が開いていて、油断しているとそこから悪いものが入り込んだりするらしい。
だから母からはよく「東京はごちゃごちゃしてるから気を抜かないで前見て気を張って歩きなさい」と言われてきたものだが、ウラサワくんの場合、ちょうどその穴に、行く先々で何かしら引っかけて来るようだ。

そんなこんなで、常に何か嫌なものがくっついているウラサワくんのことが、母は苦手なのだという。
(嫌なのはウラサワくんにくっついている得体のしれない何かであって、彼本人は明るくて良い人だというのは、母も理解している。)

そんなウラサワくんだが、ある日を境に、家でお香のようなものを焚くようになったらしい。
しかもその匂いが強烈で、家の外まで漂ってくるほどで、洗濯物を外に干しづらいくらいなのだそうだ。
元々、そういう匂いの類が苦手な母が、お香の匂いに困って、ついに直接お香を焚くのを控えてもらえないか、頼みにいった。

「あの、最近お香? みたいなの焚いてらっしゃるでしょ?」
「ごめんなさい、匂い、きついですか? 気をつけますね」
「……それは、何か意味があって焚いてるんですか? 魔除けとか……」
「うーん、でもあんまり効いてないみたいなんですよね」

母の「魔除け」という言葉を、ウラサワくんは験担ぎのような意味で受け取ったかもしれないが、お香を焚くその行動に、そういったまじないじみた意味があることを、彼は否定しなかったのだそうだ。

母に言わせれば“何でもかんでもくっつけてくる”ウラサワくんだが、くっつけてきたモノから何の影響も受けず、本人が何とも思っていないのならば、第三者は見ないフリをしておけばそれでいい。
けれど先の会話を鑑みるに、「気休めにお香でも焚こう」と思わせるような何かが起きているのかもしれない。

ちなみに、両親が内見の時に見た&感じたという嫌な感じのする黒いモヤモヤは、ウラサワくんが引っ越してきてもなお、その家に居座り続けているらしい。



半透明な彼女

ウラサワくんには交際している女性がいて、たまに彼の家を訪れる。
そして、そんな日は「家ですき焼きをするのでよければ一緒に食べませんか?」と両親に声をかけてくれるのだそうだ。

父はそういった近所付き合いが好きだから、遠慮することもなく軽い手土産を持ってウラサワくんの家へお呼ばれするらしい。
(母の方は、ウラサワくんに“ついている”モノももちろんだが、その家に元からいる黒いモノが消えていないので絶対に近寄ろうとはしない。)

そうした会を数回経た頃、父が言ったのだ。
「あの人変だわ」
と。

「あの人」というのは、ウラサワくんの彼女のことだ。
父が言うに、初めは普通に挨拶もしたし、一緒にご飯を食べていても何気なく会話していたそうだが、何度かそういった交流を続けるうちに違和感を抱いたらしい。
話していると、ふとした時に表情がなくなったり、そこにいないような気がしてくるのだそうだ。
もちろん、物理的に存在が消えたわけではない。なんとなく、「存在感」が消えたような、そんな感覚を抱くのだ。

父のその言葉に、母は特段驚くことはなかったらしい。
というのも、母には初めからウラサワくんの彼女が「透けて見えていた」からだ。
決して両親の目や何かが異常なわけではない、のだと思う。近所の人と挨拶しているところも見かけていたし、本当にそこにいる人ではあるのだけれど、母がウラサワくんの彼女を外で初めて見かけた時、その人越しに向こうの景色がうっすら見えていたのだそうだ。

正直、この話は途中何度か「それは人間ではないってこと?」と問い質してしまったのだが、母曰く一応人間ではあると思う、とのことで、一体ウラサワくんの彼女がどういう存在なのか、実際にその様子を見ていない私には判別もつかないし釈然としない。
ただ、やはりウラサワくんは、いろんなタイプの人に好かれる人なのだということは確かだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?