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新宿方丈記・19「失敗」

明け方にはまだ早い、夜中というには遅すぎる、中途半端な時間に目を覚ました。さっき寝たばっかりなのに。半分だけ起き上がって回らない頭で考える。今日は何曜日だ?…残念ながらまだ週末ではないみたいだから、数時間後には本格的に起き上がって仕事に向かわねばならない。どう考えてもすぐに目を閉じて、もう一度夢路を辿るのが正解だと思うが、疲れ過ぎて眠れない。眠ろうとすることにさえ疲れてしまうくらい疲れが溜まっているのは自覚している。喉が渇いているから、とりあえず水を飲もう。窓の外はまだまだ暗い。明かりをつけないままのキッチンで冷蔵庫の扉を開けると、黄色い光の帯が床に溢れる。

ベランダの紫陽花がまだ、蕾をつけない。いつもなら今頃、小さな花の兆しが顔を出すのに、今年はどうしたんだろう。去年花を切るときに、花芽まで切り過ぎてしまったのだろうか。布団を夏掛けにしたら、急にまた寒くなった。嫌だ嫌だ。朝、せっかく紅茶を入れたのに、マグをバッグに入れ忘れて出勤してしまった(帰ったらテーブルの真ん中に鎮座していた)。帰ってから飲んだ。苦手な人に関わらない様にしているのに、向こうがやたらとこちらを意識している(なんで?)。面倒だからやめてほしい。洗濯したら雨が降った。屋根あるからまあいいけど。メールのCCに入れなければならない宛先を入れ忘れた。3回目…いい加減マズい。チョコレートを食べ過ぎた。反省するけどしない。生きていると、いろいろ失敗するのだ。

キッチンからベッドに戻ってきた。時計の針は3時50分を指している。窓から向かいのマンションの、夜更かし常連組みの窓を確認するも、今日はみなさんすでにお休みの様である。再び横になって、自分のやるべきことを考える。作りかけの人形を仕上げる。納得のいく文章を書く。自分がやりたいことを、自分が納得いく形でやらないと意味がない。評価に振り回されて人の目ばかり気にしたり、勝ち負けでしか物事を判断できない人は見苦しくてみっともない。失敗のない人生を実践しているのかもしれないけれど、みっともないことに変わりない。そんなことは後からついて来ればいいし、ついてこなくても困らない。みっともないのが一番嫌い。たとえ日々、山ほどの失敗を繰り返していても、自分で選んで納得した毎日ならばそれでいい。あっさり考えがまとまったので、眠ろう。東の窓から見えるビルの向こうの空が薄紫になる前に。


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