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新宿方丈記・29「積もる」

貰い物の古いレコードを再生した後に針を見たら、びっしりと埃がついていて驚いたことがある。それもふわふわのいわゆる埃ではなく、脂っぽく、煙草のヤニみたいな色で、おそらくレコードの溝にびっしり埋まっていたのだろうと思う。針が溝をなぞりながら、削り出してしまったのだろう。ターンテーブル自体中古で買った古いもので、レコードはライブ盤だったし、大体私がクリアでノイズのない音を追求するようなタイプではなく、ラジカセで録音したような荒々しい音でも、いいものはいい、心に引っかかる何かがあればそっちの方が好きな人間であるから、音の歪みや雑音なんて全く気にしなかったが、もしかしたら少し音もおかしかったのかもしれない。それにしてもこの埃にはいささか言葉を失ったが、同時にこのレコードの辿ってきた道のりを思うと感慨深かった。

いただいた時に「すごく古い」以外の詳細は聞かなかったけれど、もしかしたら新譜で誰かに買われた後、何人もの持ち主を経て、どこかのバーで長いこと紫煙に燻され、バーボン片手の男たちが夢や愚痴や泣き言を吐くのを見守ってきたのかもしれないなぁ、などと想像を巡らせてしまう。私の知らない、いろんな話を知っているのかもなぁ。だってもし、この状態で中古屋に売りに行ったとしたら、検盤で引っかかりそうな代物だし。一体どんなルートを辿って我が家にやってきたのか。今は新たに旅立つ予定もなく、レコード棚に収まっている。色褪せたジャケットや擦り切れた背が、柔らかな朽ち方でとてもいい感じだ。2枚組なのでなかなかゆっくり聴く暇もなかったけれど、今度の休みに久々に聴こう。日本人の私には、どう足掻いても本当にソウルを理解することなんてできないのかもしれない。それでも好きだから、時々、静かにゆっくりとレコードを聴く。人生は山あり谷ありで、長いようで短く、尊いものだと噛み締めながら。






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