ガード2

新宿方丈記・24「スタンド・バイ・ミー」

あの12歳の夏は、当時も、その後の人生を思っても、決して幸せとは言えなかったのかもしれない。それでも12歳の夏を共有できたことは、不幸ではなかったと思う。残酷なまでに現実を突きつけられ、それでも生きてゆかねばならないことを知る。彼らなりの正義を貫き、あえてヒーローにはならず、人生の階段を一段登る。幸せなんて約束されていない未来。友情だけが、嘘偽りなくそこにあった…。スタンド・バイ・ミー。夏が近づくと思い出す。アメリカの地方都市。秘密の小屋。汽笛。オープンカー。The Coastersの”Yakety Yak”…。初めて観た時、地味だけど誠実な、本当にいい映画だなあと思った。90分足らずの短い映画だけれど、人生に必要なエッセンスが簡潔に散りばめられている。今でも大好きな映画だ。

子供でいられる時代は間も無く終わり、何よりも12歳の夏が終わってしまう。だから彼らは冒険の旅に出る。いわゆる普通に幸せな子なんて誰一人いない。自分の境遇を憂い、悩んでいる。しかしそれでも彼らは、全力で12歳である。友達である。一生懸命である。だから余計に愛おしい。子供は大人が思っているよりずっと、大人である。だからこそ、子供が子供でいられるように、守ることが大人の使命なのだと思う。時代のせいもあるのかもしれない。でも、時代が変わっても、物語の設定である50年代末とはまた、違う問題が生まれるだろう。いつの時代も、しわ寄せを受けるのは、立場の弱い子供なのだから。

それでも例えどんなに不幸だったとしても、あんな友達がそばにいてくれた、宝物みたいな12歳の夏は、甘い憧憬として羨ましく映る。冒険から帰り、町外れで別れる彼らが、もう、子供時代に背を向けて歩き出していたとしても。だって、夏草の生い茂る線路を歩いて、冒険に繰り出せるのは男の子の特権だから。男の子しかかからない、純粋な魔法なのだから。



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