映画感想記録:フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(ネタバレあり)

アポロ計画の映画ではあるけれど宇宙の物語というよりthe other words ,please be true…というお話だと思った。
アポロ計画の都市伝説的な噂から着想を得たストーリーを軸に、PRというある種の嘘を駆使した錬金術と真実の拮抗に恋愛が絡む物語。後ろ暗い過去を持つPR会社の社長ケリーが、アポロ計画の広報に引き抜かれ、嘘と誇張を駆使してこの計画の魅力をアメリカ国民に売り込んでゆく。
どうしても目につくのがケリーの広報の手練手管の一つとして美貌と色気で籠絡するシーンが多用されてる点。いざ、もう一押し…という時ににっこり笑って親しげにに熱っぽく相手を見つめる。時代を考えても、いや今だって、それらの魅力は普遍的に心を捉えるものなので異論は無い。だが、商売相手の社長連中や議員だけでなく、コールも初めてケリーに出会った時、その美しさに二度と会えない事を前提として告白しているように、美貌やそれによる序列のようなものがこの映画全体に漂っているのも確かだ。
そもそも、月があんなにも美しくなければ、おどろおどろしい容貌ならば、人間は月に行こうなんて考えもしなかったのかもしれないのだから仕方ない。美しさという引力に人間が惹きつけられること自体は異論はないんだけどね…良く言えば王道、悪く言えば平板に見える。
ケリーがコールと結ばれ、彼女の秘書がやや冴えない学生あがりのNASA職員と結ばれる辺りもカースト的な均衡の論理を感じた(私は眼鏡の彼とても好きなんだけど)
舞台は天下のNASAだし、それぞれ心に傷を負ってはいても才能・知性・美貌…持てるものと持てるものの物語になってしまうのは仕方の無い事だ。だからこれは私の僻みなのかもしれない。
平板でも、謎の提供と解決があれば楽しく見れるのだけど、その辺りも然もありなんといった感じだったので、個人的にはケリーの過去やモー氏についてもう少し怪しく深く描いて欲しかった。

コールに促され、彼の操縦する飛行機にケリーが初めて乗るシーン。虚構の月面を作ることに執心し、口八丁で価値を創作してばかりの彼女は現実の美しい景色を見ようとせず恐怖から目を瞑る。 反対派の議員を嘘ではなく真実の言葉で口説き落としたコールに惹かれ、目を開き真実に目を向けるという隠喩を込めた重要なシーンだと思うのだが、景色を全然覚えていない…わたしが悪いのか映画が悪いのかわかんないけど。いや多分わたしが悪いんだけど。大事な場面だなーと思いながら見てたのに。インパクトだいじ、の気持ちになった。ファッションはめちゃめちゃインパクトあって覚えているのだけれど。冒頭のピンクのマタニティスーツめちゃめちゃかわいい!あれを着こなすスカーレット・ヨハンソンの華やかさ。楽しくて華やかでハッピーで、聞きたいタイミングで「FLY ME TO THE MOON」が聞けて、あんまり色々考えると心が疲れちゃう時に見るのにぴったり。のんびりハッピーなお話しを楽しみたい時もある。

コールの真面目さ実直さや真実の言葉は尊いが、ケリーの嘘とハッタリが無ければアポロ計画は頓挫していた。むしろ嘘こそがバブルのように膨れ価値を産んだとも言える。ケリーは嘘をついたと言うより、そうであって欲しいという願いを形にし続けたのだろう。


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