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7月最後の金曜日は花火大会

 地元の花火大会は、どうやら中止になったらしい。ふと気になって調べたら、案の定の結果だ。このご時世だから仕方ないし、そもそも帰る予定だってなかったけれど、やらないとなると寂しいものがある。最近ちょっぴり感傷的だ。些細なことで地元を思い出しては恋しくなる。

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 予約していたCDが家に届いた。すぐにでも聞きたいところだが、タイミング悪く前日からイヤホンが片側聞こえなくなっていた。心待ちにしていたCDだ。両耳で堪能したいに決まっている。手間だが新しいものを買ってくるか。しかし買うといっても金がない。まあ、感性の鈍い私には安物で十分だろう。早速家を出て、駅前の100均に向かい、レジで110円を払って、足早に帰路に着く。

 日が傾きはじめて、生ぬるい空気に包まれる。塾帰りの小学生たちとすれ違った。涼しげな服に塾用の鞄。ああ、私も幼い頃に地元で同じ塾に通っていた。確か火曜日と金曜日だったかな。家から少し離れていたから、親に車で送り迎えをしてもらっていたんだ。 でもって、この時期は特別だった。地元では毎年7月最後の金曜日に、花火大会が開かれていた。だから塾が終わったら、迎えに来てくれた親とそのまま一緒に花火を見に行っていたんだ。

 懐かしい。すでに過ぎ去ってしまった少年少女たちに、ありし日の自分を重ねて郷愁に駆られる。昔はこの花火大会が夏の恒例行事だった。いろんな思い出がよみがえる。夜の風がちょっぴり肌寒くて次の日風邪を引いたこともあった。親と喧嘩して私が先に帰ろうとしたことも。中学生になってからは、かわいがっていた後輩と一緒に行ったりもした。高校に入ってできた友達と行ったときは、途中ではぐれて焦ったなあ。

 上京してから、少しずつ足が遠のいた。物理的な距離もあったが、精神的にも地元から距離を置きたかった。何にも縛られず自由になりたかった。一人で生きていきたかった。…それなのにどうしてこんなことになってしまったんだろう。今の私はすべてがうまくいっていない。自分なりに頑張ってきたはずなのに、この手には何もない。とことん打ちのめされて、あんなにも離れたかった地元に帰りたい気持ちでいっぱいだ。

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 子供の頃の楽しかった思い出は傷口にしみる。買ってきたイヤホンは、感覚の麻痺していた私でさえわかるほどに音質が悪かった。でも今の自分には相応な気がして、ぼやけたメロディに包まれながら明日に思いを馳せるのだった。

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