新型コロナウイルスの各社ワクチンの比較

近日中に日本でもNovavaxの新型コロナウイルスワクチンが承認されそうという情報があるので、査読前の論文ではあるが一つ紹介する。
ModernaワクチンmRNA-1273、Pfizer/BioNTechワクチンBNT162b2、 Janssen (Johnson & Johnson) ワクチンAd26.COV2.S、NovavaxワクチンNVX-CoV2373によって誘導される免疫応答の違いを比較している。
つまり、mRNAベースワクチン、ウイルスベクターベースワクチン、組み換えタンパク質ベースワクチンの比較とも言える。
(査読前論文)”Humoral and cellular immune memory to four COVID-19 vaccines

「ワクチンによって誘導される免疫応答反応の違い」であって、「臨床的なワクチンの有効性の違い」と相関するとは必ずしも限らないこと、
研究の目的は、「ワクチンの優劣をつけること」ではなく、「ワクチンのタイプよって誘導される免疫応答の違いを知ること」であること、に留意が必要である。

まず、簡単にNovavaxの新型コロナウイルスワクチンに関する情報を。
日本では武田薬品工業が国内製造・販売を行う予定で、海外開発コード:NVX-CoV2373、武田薬品工業開発コード:TAK-019。
新型コロナウイルス武漢株の完全長スパイクタンパク質の配列を改変したものを昆虫細胞で生産させた後、三量体状態のスパイクタンパク質を微粒子に多数結合させたもので、抗原性補強剤(アジュバント)としてMatrix-M(チリ原産キラヤ科Quillaja Saponaria から取れる2種類のサポニン由来物質、コレステロール、リン脂質)を含有する。0.5 mL(5 μgの組み換えスパイクタンパク質と50 μgのMatrix-Mアジュバント)を21日間隔で2回接種する。

NVX-CoV2373の概要 (出典:Novavax, Inc.)

では、本題の論文内容の概要を以下に紹介にする。
mRNAワクチン2種は2回接種、ウイルスベクターワクチンは1回のみ接種、組み換えタンパク質ワクチンは2回接種、と標準的な接種手順で行われた。

①免疫応答の指標としてよく使われる、スパイクタンパク質に特異的に結合するIgG抗体量は、
1回目接種から6ヵ月程度経過した時点で比較すると、
Pfizer/BioNTechワクチン (mNRAワクチン) ≒ Modernaワクチン (mRNAワクチン) > Novavaxワクチン (組み換えタンパク質ワクチン) > Janssenワクチン (ウイルスベクターワクチン)  ≒ 自然感染者
mRNAワクチンが最大値が一番高いが減少幅は大きい、組み換えタンパク質ワクチンやウイルスベクターワクチンは最大値はあまり高くないが、安定的である。

Zeli Zhang et al. の査読前論文をもとに作成

②発症予防や重症化予防との関連が考えられる、中和抗体量は、
1回目接種から6ヵ月程度経過した時点で比較すると、
Modernaワクチン (mRNAワクチン) > Pfizer/BioNTechワクチン (mNRAワクチン) ≒ Novavaxワクチン (組み換えタンパク質ワクチン) > Janssenワクチン (ウイルスベクターワクチン)  ≒ 自然感染者
mRNAワクチンが最大値が一番高いが減少幅は大きい、組み換えタンパク質ワクチンは最大値はあまり高くないが安定的である、ウイルスベクターワクチンは時間経過とともに値が増加する。

Zeli Zhang et al. の査読前論文をもとに作成

③ワクチン接種後の感染時に抗体を速やかに生産するために重要な、スパイクタンパク質特異的なメモリーCD4 + T細胞の免疫応答は、
ピークは、Modernaワクチン (mRNAワクチン) > Pfizer/BioNTechワクチン (mNRAワクチン) ≒ Novavaxワクチン (組み換えタンパク質ワクチン) > Janssenワクチン (ウイルスベクターワクチン) 
・mRNAワクチンは2回接種でピークになり、6ヶ月後でもあまり低下せずに安定していた。
・ウイルスベクターワクチンも6ヶ月後でもあまり低下せずに安定していたが、mRNAワクチンよりかは全体を通して低かった。
・組み換えタンパク質ワクチンは6ヶ月後でも検出され、mRNAワクチンと同程度であった。

④細胞性免疫(キラーT細胞によるウイルス感染細胞の破壊)を担う、スパイクタンパク質特異的なCD8 + T細胞の免疫応答は、
mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンと同程度であり、6ヶ月後でも安定的だった。
(組み換えタンパク質ワクチンでは原則として、細胞性免疫を獲得しない)

まとめると、
①mRNAワクチンは、抗体による防御(液性免疫)と感染細胞の破壊(細胞性免疫)を獲得し、誘導される免疫の強さはウイルスベクターワクチン、組み換えタンパク質ワクチンよりも強い。
抗体量はピークが著しく高いが、時間経過による大幅な減少が見られる。一方、抗体再生産準備や感染細胞破壊は6か月後でもあまり低下しない。

②ウイルスベクターワクチンは、抗体による防御(液性免疫)と感染細胞の破壊(細胞性免疫)を獲得するが、1回だけの接種では誘導される免疫の強さはmRNAワクチン、組み換えタンパク質ワクチンよりも弱い。
抗体量、抗体再生産準備、感染細胞破壊は6か月後でも安定している。
アデノウィルスを使用して細胞内に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質DNAを取り込ませるので、粘膜でのウイルス感染防御に関する免疫応答が見られる。

③組み換えタンパク質ワクチンは、抗体による防御(液性免疫)しか獲得しない。誘導される免疫の強さはmRNAワクチンより少し弱いが、ウイルスベクターワクチンよりも強い。
抗体再生産準備は6か月後でもあまり低下しない。

(備考)
今後日本で流通するかもしれない新型コロナウイルスワクチン
①田辺三菱製薬:(組み換えタンパク質ワクチン)植物由来のウイルス様粒子ワクチン「COVIFENZ」。武漢株のスパイクタンパク質三量体を持つウイルス様粒子にGSK社のアジュバントAS03(スクワレン系)を添加21日間隔で2回接種。
②塩野義製薬:(組み換えタンパク質ワクチン)昆虫細胞由来のスパイクタンパク質ワクチン。開発コード:S-268019。アジュバントA-910823を添加予定。3週間間隔で2回接種予定。
③第一三共:(mRNAワクチン)スパイクタンパク質のmRNAワクチン。開発コード:DS-5670。
④KMバイオロジクス:(不活化ワクチン)感染力や毒性をなくしたウイルス。開発コード:KD-414。インフルエンザHAワクチンと異なり、GSK社のアジュバントを添加予定。筋肉注射で27日間隔で2回接種予定。
⑤アンジェス:(DNAワクチン)スパイクタンパク質のDNAワクチン。開発コード:AG0302-COVID19。アジュバントを添加予定。
⑥Elixirgen Therapeutics:(自己複製RNAワクチン)スパイクタンパク質の全長ではなく、受容体結合ドメイン部分のみを自己複製型RNAとして皮内注射する。開発コード:EXG-5003。

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