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忘れない

台風が近づいている
最後の晴れた日
身体が浮かんでいるような感覚で
もう二度と行くことはないだろうと
そう思っていた場所へ向かう

河を渡る橋の上から
いくつもの時がリズムのように
やって来ては消える

掴めない記憶が
伸ばそうとする手のやり場を無くす

積乱雲が昔見た夢の世界へと誘う

浮かび上がる体
雲の方角へ跳ぶ

家路へ
かつて家とした所とは
真反対の方向へ

かつてそこにいた
存在と
想いと
幸せであった私とあなた

あの時
私は幸せでした

只、ただ、あの日の今日を
過ごしていた事だけが全てだった

あれが
カリソメであったとしても
あれが
あの時の私の本物だった

もう思い出す事もないかもしれない

只、ただ、今日
この橋に来た時の涙が
今までの全てだった事は
死ぬ日が来るまで
心臓の裏側までずっと忘れない

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