産婦人科ってなんであんなに怖いんだろう
ここ10年くらい生理が止まったり遅れたりしたことなんてほとんどないのに、先日不正出血をした。血が茶色かったのでパンツを見た瞬間うんこかと思った。28歳にして記憶にないうんこを漏らすとか、脳の異常を疑いそうになったが数秒でこれは「血」だと気付き、さらに不安は押し寄せた。
夫に話してもポカンとしたアホ面でこちらを見ているだけなので、腹が立ってしかたがない。説明しても「ふうん、まあ大丈夫だよ」と根拠のない励ましをうけて怒りの噴火5秒前。もしこれで子宮に異常があったとしたら苦しむのはわたしだけじゃないのよ!と思わず大声をだしたくなったが、ドタドタと足音を立てながら2階へ駆け上がり布団の中で静かに泣いた。
翌日すぐに診てもらおうとGoogleを頼りに近辺の産婦人科を探した。口コミを巡回するがなぜかどこも評価が最悪。
「がん検診したのに後々癌が見つかった!どうしてくれるんだ!」
「主治医のジジイが気持ち悪い!早く引退しろ!」
「看護師に馬鹿にされた!」
どれも若干ヒステリック気味ではあったが、気持ちはわからなくもない。わたしも昨夜の夫の対応に未だ腹の虫が治っていないからだ。まともな口コミの産婦人科はなかなか見つからなかったけど、そのなかでも(評価にばらつきはある)比較的信用できそうな産婦人科を選び電話をかけた。
ほんとうは当日に診てもらいたかったが、先生が忙しいそうでずいぶん先でないと予約が取れなかった。
それから10日後。ようやく受診の日を迎えた。
うぅ、怖いからバックれて〜と弱音を吐きかけたが震える足で車を運転し、産婦人科まで向かう。
ナビのアナウンスが終わると、薄紫色の細長いボロい病院が見えた。古いのに心なしか安心している自分がいる。地元の町医者を彷彿させるからだろうか。ボロい病院は普通怖いはずなのに。
入り口に置いてあるアルコールで手指を除菌し院内へ入る。
「9時から予約した桃沢です」
「入り口の問診票は書きましたか?」
受付の女性は強めの口調で言った。声は優しいがもちろん目は笑っていない。
「あ、いや」
「じゃあ次回からは入り口で書いてくださいね」
スッと問診票を渡されたので受付の台の上で書いていると「席に座って書いてください」とまたもや強めの口調。
だめだもう帰りたい。ただでさえ緊張しているのに、殺伐とした雰囲気の看護師や受付の女性に心臓が煽られる。
問診票にはパートナーの名前や連絡先の項目があった。(これって必須項目なのか?)一応夫の名前と連絡先を書いたが、自分が独身だったら書きたくなかっただろうなと想像する。コンドームを嫌う元彼のことを思い出した。
問診票を提出し待合室でTVを観て待っていた。今期から始まるドラマの予告特番だった。アラサー女のドタバタ恋愛コメディ、ちょっとおもしろそうじゃん。
しばらくするとNHKのニュースに切り替わり、アメリカの中絶権利をめぐるデモ映像が流れた。産婦人科で観たくないニュースNo.1だ。気まずさのなか感情を殺しながらただひたすら時間が過ぎるのを待つばかり。1時間ほど経っただろうか。名前を呼ばれたので、診察室に入ると、髪が薄い細身の初老男性が椅子に座っていた。
この人が先生か。ひとまず先生に症状を伝えると、いつからか聞かれる。
予約してからずいぶん時間が経っているので咄嗟に答えられない。たしか、予約の電話をした前日ですと言うと、こちらはあなたが予約した日は知らないですけどと叱られた。ルナルナで確認しようとするもスマホはなぜか圏外になっているし、先生の苛立ちが表情から伝わってどぎまぎ。
焦りながらも、友人とのLINEを辿ってなんとか日にちがわかった。ホッと一安心し、先生に伝えると、隣の診察室へ移動してくださいと看護師さんから言われた。
扉を開くと、つけてる意味ある?というくらいボロめの短いカーテン。手前にピンクの診察台。
「ショーツを脱いだら診察台へ座ってくださいね」
6年前、初めて産婦人科にきた時もこの診察台の上で検診が行われたわけだが軽くトラウマだ。痛いし恥ずかしいし痛いし...。しかも今日に限っては、受付で1回、診察室で1回と合計で2回も怒られているので、気分は地獄の底だ。
とぼとぼとパンツを脱いで仕方なく診察台の上に座ると超音波を使った検査が始まった。緊張で身体は硬直している。とにかくはやく終わってほしい。痛みで下半身に力が入るので「力抜いてくださいねー」と看護師さんに何度も言われるが、とにかく呼吸をするだけで精一杯。
念のために子宮がん検診もお願いしていたので、同時に行われたわけだが、さっきよりも痛かった。看護師さんの、痛いですけどがんばってくださいねーの言葉に反応し、脳が”これは痛いぞ!”と認識した。
冷たい棒状のものが子宮をぐっと押している。じわじわと冷や汗をかき、鼓動がだんだん早くなる。とにかくこの場から逃げ出したい!と大暴れ(したい気分)。叫べるモノなら叫んで気を紛らわしてえ。
結果、そこそこな時間がかかり、診察台の上で全てのHPを使いきった。ぐったりした身体とじんじんする下半身を引きずり診察室に戻る。先生には子宮も卵巣もめちゃくちゃ綺麗なので問題ないと言われた。出血はおそらく排卵によるものだと。へえ、排卵期でも血が出るのね。
「なにか他に気になることはありますか?」と聞かれたので、時々起こる子宮の痛みについて話してみると、それはわかりませんと強めの口調で返された。あれだけ痛みに耐えたのにこのジジイまだわたしを叱るか?と脳内ではバトルモードに入りかけたが、現実は「そ、そうですか!ありがとうございました」と控えめにおじぎをしてそそくさと待合へ戻った
拷問検診を無事(?)終えて、1時間前より2キロくらい痩せた気がする。残っている体力はマイナス200。その後、会計で名前が呼ばれるまで長椅子でぼうっとしていると、階段からひとりの女性が降りてきた。
すると看護師のおばさん達がゾロゾロ女性に近寄ってきて「退院おめでとう〜!元気でね!」と笑顔で声をかける。よく見ると腕の中には小さな赤ちゃんが...女性は終始満面の笑みを浮かべていた。なんて微笑ましい光景なんだ。そうだ産婦人科って幸せが生まれる場所でもあるんだ。
あんなに惨めで痛い思いをしたのに、他人の赤ちゃんを見てすこしだけ心が軽やかになった気がした。感情のジェットコースターがえらいことになっている。新生児の尊さたるや。
あぁ、女ってどうしてこうも複雑でめんどくさいのか。さっきまであんなに落胆していたのに、今はなぜか母性すら芽生えようとしている。
もうこの際女をやめたい、とまではいかないが...性別という概念がなくなればいいとおもう。産婦人科はさまざまな問題を抱えている女性がやってくる。妊婦だけじゃない、婦人病やら不妊やら更年期やら性病やら。望まない妊娠をしている人だっているかもしれない。そういうことを考えるとこの場にいるのがつらくなって、すぐさま立ち去りたくなる。
もうできるだけ来たくないとは思うけど、きっとそうもいかないであろう。最低でもあと20年くらいはホルモンバランスに振り回されると思うし。妊娠する可能性だってゼロではない。
とりあえず、癌の検診結果がなにごとないようにと今は願うばかりだ。もし癌になってたとしたら闘病noteを書こう。そうしよう。
そんな縁起でもないことを考えながら、地獄の産婦人科を後にしたのであった。いつか産婦人科が怖くなくなる時は来るのだろうか?
次に来るときは悲しい理由じゃありませんように。
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