IN DREAD RESPONSE:2015年インタビュー

2015年の12月にベン・リード(vo)とトラジャン・シュウェンケ(g)に実施したインタビューです。2016年2月に決定した2度目の来日公演と、それに合わせた3作目『HEAVENSHORE』の日本流通盤にまつわる内容でした。当時から若干の修正と加筆をしています。

来日公演は諸事情で東京のみ、しかも当日は大雨だったのですが集客は上々で、まだ認知度はそこまで高くなくても、ファン層は厚いんだなと改めて思いました(最後の謎説法は置いておくとして)。この来日公演の後、ニュージーランドで数回ライヴをやって以降IN DREAD RESPONSEとしては活動を休止。ベンはよりエクストリームなデスメタル/グラインドコアなBRIDGE BURNERやPUNISHED、TOSKA HILLを掛け持ちし、トラジャン、スティーヴ・ボーグ(b)、コリィ・フリードランダー(ds)はニューメタル寄りのCITY OF SOULSにそれぞれシフトしていきました。とはいえ別にメンバー間が不仲になったとかではなく、純粋にそれぞれ別のやりたいことをやろう、というだけのことみたいです。特にCITY OF SOULSは地元でしっかりとマネージメントがついてBRING ME THE HORIZON、STONE SOURといった大物のサポートを務めるくらいなので、色々あるんでしょうね。

このインタビューの後、ベンから「MVができたぜ!」といって送られてきたのが以下の“Earthen Bonds”だったんですが、冒頭でいきなり明朝体でデアカデカと「アースン・ボンズ」と表示されるのがちょっと話題になりました。でもこれ、最初にベンが送ってきたときは「アーセン・バウンズ」になっていたんですよね。「日本語で書くならアースン・ボンズだと思うよ」と伝えたら即修正版を送ってきたのを覚えています。

​ちなみに2020年の夏、CITY OF SOULSでトラジャンにインタビューした際に教えてくれたんですが、トラジャンとコリィでIN DREAD RESPONSEとしての新曲作りも少しずつ始めたそうです。まだアイデアのみの段階ではあるものの『HEAVENSHORE』と同じメンバーで復活予定、2021年~22年にかけて何かしらリリースしたいと言っていました。「その頃にはコロナも落ち着いていてほしいし、IN DREAD RESPONSEとCITY OF SOULS両方で日本に行きたい」ということなので、忘れずに待っていたいですね。

text by MOCHI

Translation by Tomohiro Moriya

――ベンは以前日本に住んでいたけど、2015年7月にIN DREAD RESPONSEとして初の日本ツアーをしたよね。改めて、日本の印象を教えてもらえる?
ベン「僕は3年ほど日本に住んでいたけど、人生でも最高の3年間だったと言えるよ。7、8年前(※2009年頃)に初めて行ったとき、文化も人々も素晴らしいと感じたし、休みのたびにまた戻ってきたいと思ってさ。それだったらいっそ住んでみたらいいじゃないか!と思って移住を決めたんだ。2015年春にニュージーランドに戻らなきゃならなくなったけど、その後バンドとしてまた日本に行ったとき、お客さんの反応も、いっしょにステージに立ったバンドの雰囲気もとてもよかった。そういった音楽的なところにも日本の文化が反映されていると感じたし、いい思い出しかないよ」
トラジャン「今では、日本は僕にとってお気に入りの場所だよ。昔ロンドンに住んでいたことがあったんだけど、ニュージーランドとロンドンはどこか似たところがあると思うんだ。でも、日本はまったく違ったね。街は清潔だし、出会った人もみんな親切で、そこにまず驚いた。ライヴでの観客の反応も素晴らしかったね。別のバンドが目当てだったであろうお客さんも、ちゃんと僕たちのことを観てくれたんだ。日本はいいショウをやれば、やっただけ純粋な反応がある場所に思えた。やりがいを感じたし、本当にうれしかったよ」
――バンドは2005年に結成したそうだけど、どんな経緯でスタートしたの?
トラジャン「以前やっていたバンドは、もっとポスト・ハードコアのようなサウンドだった。僕はもともとSLAYERもそんなに好きじゃなかったくらいだし、メタル色はあまりなかったね。でも僕の人生は、日本のenvyに出会って変わったんだ。こんな音楽をやりたいと思って、IN DREAD RESPONSEを結成したくらい。あのヴォーカルやサウンドスケープの美しさは本当に衝撃的だったよ。でも少しずつSLAYERだったり、DARKEST HOURなんかのメタルコアも聴くようになって、より方向性が定まっていった。それでそういった音楽がプレイできるようなメンバーを集めてスタートしたんだ」
――これまで、かなりメンバーチェンジが多かったみたいだね。
トラジャン「バンドのスタイルや方向性は、少しずつ変わりながら固まっていくものだよね。でもだからといって、メンバー全員がずっと同じ方向を向き続けるのは難しい。だから方向性に変化があったときに、じゃあそのスタイルは自分には合わないから…という感じで脱退するメンバーはいたけど、ケンカ別れなんてしたことないよ。それに、ニュージーランドの音楽シーンは、ひとつのバンドだけで活動するほうが珍しいんだ。いくつかのバンドを掛け持ちする人が多い。実は僕とベンも、以前同じバンドで活動していたことがあるんだよね」
――前ヴォーカルのショーン・コノリー(現APNEA)はストレートなデスヴォイスを出していたけど、ベンは甲高いスクリームから低いグロウルまで使い分ける、もっとエモーショナルな声だよね。タイプの違うヴォーカルが入ることが決まってから、『HEAVENSHORE』の曲作りに入ったの?
トラジャン「いや、ショーンは曲作りをしているときに抜けることになったんだ。とはいえ、作っている曲を捨ててしまうのはもったいないし、どうしようと思っていたら、スティーヴ(・ボーグ/b)が、ベンはどうだと提案してくれた。ベンは長い付き合いの親友で、さっきも言ったように一緒にバンドをやっていたこともあるし、作詞やヴォーカル面でも尊敬している。もし彼に断られたら、ほかにヴォーカルをお願いできる人なんていなかったから、大丈夫かなってちょっとビビっていたよ(笑)。でも相談したら快くOKしてくれたし、今のバンドはとても充実していると思う」
――ベンが入ったことで、バンドや曲がより進化したという感覚はある?
トラジャン「基本的に僕が曲を書いているし、自分が作った作品としてなじみがあるはずなんだけど、ベンがヴォーカルを入れてくれたことで、心をわしづかみにされるようなものになったと思う。なんていうか、すごくエモーショナルなんだ。これこそベンが持ち込んでくれたものだし、アルバムの隅々まで行き渡っていると思うよ。ベンが入ってくれたからこそ完成したアルバムだし、自分でもよく聴く作品なんだよね」
ベン「トラジャンとスティーヴが曲のデモを聴かせてくれたとき、すごく共感したというか、僕の気持ちにすごく響いたんだ。だからこそ僕も感情を込めてヴォーカルを入れることができたと思うし、自分も挑戦ができたと思う。このアルバムをショーンが歌っていたら、まったく別のものになっていただろうね」
――『HEAVENSHORE』は、過去作品のようなメロディック・デスメタルやスラッシュ的な曲を残しつつ、よりポストロックや激情ハードコア寄りのアプローチをとった曲が増えたよね。これまでもアトモスフェリックな要素はあったけど、今回それがかなり多くなった印象がある。
ベン「僕自身、もともとIN DREAD RESPONSEのファンだったし、前にやっていたバンドでいっしょにツアーしたことが何度もあった。今君が言ったようなスラッシュ的な要素と、ポストロック的なアプローチそのものは、ずっとバンドが持っていたんだよね。そのバランスが少しずつ変わっていって、今回のような配分になったんじゃないかな。いわゆるポストロック的な要素を持つバンドでは、envyのほかに日本のMONOにもすごくインスパイアされるよ。彼らも長い曲が多いけれど、しっかりとしたダイナミズムを意識して作られていることがよくわかるからね。今回トラジャンが作った曲も、そういったダイナミズムを意識して、ミュージシャンとしての実力を発揮していると思うよ」
トラジャン「今回のアルバム収録曲は、実は古いものから新しいものまで、できあがった順番に並んでいるんだ。たとえば1曲目の“Divination”は、ある風が強い日に家のバルコニーで思いついた。そのとき、僕は気分がちょっと落ち込んでいたんだけど、たまたま父さんが電話してきてさ。なにをやっているのか聞かれたから、そのときの気分を話したら、“だったら、それを曲にしてみたらいいんじゃないか”と言われて、それで作ってみたんだ。2曲目の“Earthen Bonds”は怒りとかではなく、自分の人生を生きるんだという決意めいたものを込めてある」
――つまり、トラジャンの内面や感情の起伏が、楽曲に反映されていると?
トラジャン「まさにその通り。人の気持ちというものは、常にフラットなものではないよね。たとえば顔面を殴りつけるようなスラッシーな曲は、アルバムのなかでは気分がすごくハイなとき。そのあと、とてもメロウな気分になることがあるから、よりアトモスフェリックでメロディックなアプローチになる、といったところかな」
ベン「その感情の起伏は、ステージにも表れていると思う。僕たちのステージでの動きはパフォーマンスではなくて、内に秘めている感情を爆発させるような感じなんだ」
――歌詞には比喩や抽象的な表現が多いけど、どんなことを歌っているの?
ベン「この歌詞は、僕にとってすごく大切なものなんだ。比喩が多いというか、僕が自分でこう思うという表現を書いているから、それが読んでくれた人を選ぶのかもしれないね。それと、今回はアルバムの曲が全部できあがってから歌詞を書いたんだ。1曲作って、ヴォーカルも決め込んで、じゃあ次の曲…という形ではなかったから、全体の流れがつながった、どこかコンセプト作のような感覚で作ったところがある。だから自分のなかでの表現で書いて、完結させた感じなんだ。IN DREAD RESPONSEの音楽は、世の中に起きていることへの怒りを表現してきたところがあるんだけど、今回はそれに加えて、僕のパーソナルなところが加わっている。歌詞を読んで、明確な意味がわからずとも、僕のパーソナルなことをその人自身が解釈してくれれば、それでいいんじゃないかと思うんだ。本当の意味については(日本語で)ヒミツ!」

――『HEAVENSHORE』の日本流通にあたって、ショーン在籍時の3曲を再録しつつ、ナンバーガールとenvyのカヴァーがボーナストラックになったね。海外のバンドが日本のバンドを取り上げるのは珍しいけど、なぜこの2バンドだったの?
ベン「日本のバンドのカヴァーをすることで、日本のファンに、特別な贈りものをしたいと考えたんだ。まずナンバーガールは僕たちとスタイルは違うものの、バンドとしての姿勢には共感するし、今回取り上げた“I don't know”は、怒りや悲しみといった感情が僕たちに通じるところがあると思った。でも僕たちは悲しい曲をさらに悲しくアレンジしてしまったから、日本のみんなが泣いてしまうかもしれないな(笑)」
トラジャン「envyについては、僕が初めて聴いた曲が“A Far Of Reason”だったんだ。もう、呆然としたよ(笑)。こういった壮大な曲は、映画のサウンドトラックなんかで、オーケストラがプレイしているものしか聴いたことがなかった。でもenvyは、それをギター、ベース、ドラム、ヴォーカルだけで表現していたし、こんなにも感情に訴えかけてくるなんて、本当に驚いたんだ。それに、少しカルト的な曲だけど、カヴァーすることで、envyの隠れた名曲を知らしめたいという気持ちもあったんだよね」
ベン「彼らの『A DEAD SINKING STORY』は有名だし、大好きなアルバムだよ。でもそこから選ぶのではなくて、トラジャンが言ったように、envyにはこんな名曲があるんだと僕たちからアピールして、みんなと共有したいと思ったんだ。envyは日本ではもちろんだけど、海外での評価がすごく高いよね。僕たちもそんなふうになりたいよ」

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