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Branches and twigs

Mochian Okamoto
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木がそこに立っていられることができるのは
木が木であってしかも
何であるかよく分からないためだ


木を木と呼ばないと
私は木すら書けない
木を木と呼んでしまうと
私は木しか書けない


でも木は
いつも木という言葉以上のものだ
或る朝私がほんとうに木に触れたことは
永遠の謎なのだ


木をみると
木はその梢で私に空をさし示す
木を見ると
木はその落葉で私に大地を教える
木を見ると
木から世界がほぐれてくる


木は伐られる
木は削られる
木は刻まれる
木は塗られる
人間の手が触れれば触れるほど
木はかたくなに木になってゆく


人々はいくつものちがった名を木に与え
それなのに
木はひとつも言葉を持っていない
けれど木が微風にさやぐ時
国々で
人々はただひとつの音に耳をすます
ただひとつの世界に耳をすます

 『 木 』 谷川俊太郎

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